鉄道「オールジャパン」のちぐはぐな実態 日本の鉄道は本当に「世界一」なのか?

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「鉄道を含むインフラ輸出を成長戦略の柱に位置付ける」という安倍首相のかけ声の下、政府サイドは世界各国で高速鉄道の売り込みに躍起だ。一方で、JR東海は米国テキサス州の高速鉄道案件の成立を目指し、20人のスタッフを現地に派遣している。世界各国で進む複数の高速鉄道案件をすべてこなせるだけの人材が日本にそろっているのか。

インド在住の鉄道コンサルタントは「複数の案件どころか、ムンバイ―アーメダバード案件一つとっても日本はこなせるかどうか」と疑問を呈する。海外での業務経験がある鉄道技術者はまだまだ少ない。日本しか知らない技術者が他国の技術者とどこまで渡り合えるかは確かに未知数だ。

セールスを行なう政府と車両を製造するメーカーの足並みがそろわず、そもそも海外で鉄道案件を担う人材も足りない。日本の鉄道輸出戦略はどこかちぐはぐだ。官民が一枚岩で進むにはどうすべきか、足元からもう一度見直す必要がある。

海外で勝ち組の日立に獅子身中の虫

英国を走る日立の高速車両(写真:記者撮影)

英国でIEP(都市間高速鉄道計画)という大型案件をモノにした日立製作所は、海外の”勝ち組”と見られがちだが、実は頭を悩ませている問題がある。イタリアの航空防衛大手フィンメカニカから買収した鉄道信号メーカー・アンサルドSTSである。

日立は昨年11月にフィンメカニカからアンサルドSTSの株式を40.07%取得した後、残りの株式について今年1~3月に公開買い付けを実施した。買収価格が安すぎると主張する米ヘッジファンドなどの株主が応じず、日立の保有比率は50.77%にとどまり、全株取得はかなわなかった。その後、アンサルドSTSの株主総会では、日立は9人中6人の取締役を送り込んだが、米ヘッジファンドは取締役選任の無効をイタリアの裁判所に提訴している。

アンサルドSTSの主要業務である信号システムは世界的にも成長分野とされる。日立にとって極めて戦略的な会社であるが、大株主から揺さぶりをかけられると、機動的な事業運営が難しくなるかもしれない。

もっとも、フィンメカニカからはアンサルドSTSと同時に非上場の鉄道メーカー・アンサルドブレダ(現日立レールイタリア)の株式100%を取得している。同社は赤字経営ゆえに日立の“お荷物”となるのではないかと見られた時期もあったが、日立傘下入り後、次々と受注を重ねている。英国のEU離脱という状況下では、さらに存在感を増すに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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