殺人犯たちはフルマラソンに何を見出すのか

打ちのめされた誇りを賭けて自分と戦う

受刑者の中でもっとも優勝が確実だと見られているマーケル・テイラー。しかし、勝ったからといって特別な見返りや褒賞があるわけではない

窃盗犯、殺人犯、そしてドラッグ売人──。カリフォルニア最古の監獄の囚人たちが、罪の重さに関わりなく、揃ってフルマラソンを走る日が、毎年1度だけやってくる。「サン・クエンティン・マラソン」と呼ばれるこの大会で男たちは、栄光をかなたに見据え、打ちのめされた誇りをかけて走るのだ。

刑務所の塀の中をめぐるフルマラソン

当記事は「GQ JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)の提供記事です

サン・クエンティン州立刑務所の獄舎の屋根からようやく朝日が射すころに、そのマラソンはスタートする。刑務所構内の運動広場の西側から駆けだしたのは2ダースほどの受刑者たち。ほぼ全員が殺人犯で、大部分はもう10年以上もここで服役している。序盤から先頭に立ったマーケル・テイラーもそんなひとり、終身刑の囚人だ。

砂利敷きと芝生と舗道のパッチワークがカリフォルニアの日照りに灼かれる敷地に引かれたコースを、メッシュのジムショーツの裾を膝上でひらめかせ、綿地のタンクトップをたちまち汗みずくにして、マーケル・テイラーは駆けていく。青い囚人服を洗う洗濯施設の建物のところで最初のターンをし、ホースシューズ場を前にしてコンクリートの坂になった急激な右カーブを東へ曲がりこむ。そしてアスファルト舗道を渡り、屋外用小便器の列を、サンドバッグや懸垂用鉄棒が並ぶ一角を抜け、増え続ける高齢受刑者の世話に追われる診療所の脇を駆け抜けていく。テイラーは、そうしてコースを忠実にたどり、3700人の受刑者たちにランナーの進路妨害をするなと警告するために、緑色のスプレーで引かれたラインから一歩もはみ出さずに走りつづける。敷地の北面に至ると、受刑者ランナーの列を後ろに従えて監視塔の足元までつづく坂を駆け下りる。それから6度目にして最後の90度ターンを曲がりこみ、教誨師たちがカモメの群れの舞い飛ぶなかで福音の熱弁を振るっているさなかを走りすぎる。

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