金融緩和しても、2%の物価上昇は実現できない 次期日銀総裁が背負う十字架

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バブルはどこかの段階で崩壊する

昨年の11月以降、円安と株価上昇が続いている。連載の第10回(1月26日号)で述べたように、円安は基本的にはユーロ情勢の変化によると考えられる(同号の第2特集の81ページで、藤田勉氏が同じ見解を述べている)。ただし、日本国内の金融緩和期待に影響されている面も否定できない。しかし、実体経済と乖離したバブルは、いつまでも継続できない。

株価上昇の持続性は、大いに疑問だ。なぜなら、実体経済は深刻だからだ。昨年の秋以降、日本の輸出は、対前年比マイナスを続けている。円安でも輸出が増えない。だから、円安が進んだところで、企業収益が本格的に回復するかは疑問だ。他方で工場の海外移転が続き、国内工場の閉鎖も続く。これによって、中小企業の倒産が増えるだろう。中小企業に債務返済猶予を認めていた金融円滑化法が、今年3月で終了することもある。企業の実態が極めて深刻な中での株価上昇は、異常な情景だ。

円安の進行は、内外金利差が余り開いていないことが制約になる。円を売ってドルを買っても、米金利は日本の金利より少し高いだけなので、金利差収益は大きくならない。他方で、少しでも円高に振れれば、為替差損を被る。事実、購買力平価から言えば、長期的には年率2%程度の円高が続くはずだ。だから円売り取引は損失を被る可能性のほうが高い。したがって、どこまでも円安が続くとは考えられない。

以上のことは、ある程度は予測されている。だから、多くの人は、株もドルも、どこかで売り抜けようとしている。そのタイミングは、安倍内閣の成長戦略の全容が明らかになるときだ。既得権益の厚い壁を突破することはできず、古い産業構造を維持するための施策が中心になるだろう。それによる失望の広がりが、バブル崩壊のトリガーになるはずだ。

次ページ成長戦略の全容が明らかになる時が危ない
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