「退職金」知っておいて損はない基本中の基本 大手と中小で差は1000万円超、ゼロの会社も

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また、コンサルタント会社のように「10年で一人前」と考えているような会社は「勤続10年以上から支給率が上がり始めて同20年で2倍」などという設計をすることもあります。また、「55歳で退職した場合は功労加算あり」など自発的な退職の誘因として設計することもあります。

退職日の選択は慎重に

退職日の決定は退職金のみに影響がでるわけではありません。退職日の選択によりさまざまな影響が考えられるのです。

(1)賞与
多くの企業が導入している賞与でも支給要件を確認したことはおありでしょうか?「見たことない」のに退職を考えているあなたは大失敗するかもしれません。

給与規程において「賞与は支給日現在、在籍している社員に支給する」と賞与の支給について定めている企業は少なくありません。これがどういうことかというと、読んで字のとおり、会社が決めた賞与の支給日に、社員として在籍しているかどうかで賞与の出る、出ないが決まるのです。例えば、夏季賞与の支給日が7月21日の場合、7月21日付退職ならば賞与は支給されますが、7月20日付で退職をするとまったく支給されないということなのです。賞与に関しても退職金と同様、会社の“決め方”次第ですので、給与規程をよく確認しておくことです。

(2)社会保険(健康保険・厚生年金)

社会保険料の仕組みをご存知でしょうか。かいつまんで説明すると、月末まで在籍している場合は、その月の保険料が発生し、月中で退職している場合では保険料が発生しないのです。例えば、7月31日で退職したケースでは7月分の社会保険料が控除されるのですが、7月30日退職であれば控除されないわけです。

退職後の状況によっては国民年金や国民健康保険料が発生することもあるので、一概に「月中退職が得」といったようなことは当てはまりません。ただし、こと”賞与”だけを考えれば当てはまりそうです。健康保険や厚生年金では”賞与”からも保険料を控除されるからです。

つまり、賞与が支給された後、月末前(7月であれば7月30日まで)に退職すれば、通常の保険料のみならず、賞与からも保険料が徴収されることはないというわけです。国民年金や国民健康保険料にも影響はありませんので、ここだけに注目すれば”得”といっても差し支えないでしょう。ちなみに退職金には社会保険料はかかりません。

(3)基本手当

基本手当(失業した場合に雇用保険より支給される生活補償です)も退職日によっては支給されないこともあり得ます。基本手当は「離職日以前2年間に被保険者期間1年間」というルールがあります。簡単に説明すると、「退職日前の勤続2年間のうち、ちゃんと勤務していた月(11日以上)が12カ月以上あれば支給します」という制度です。

この2年間や12カ月というのは退職日からさかのぼって暦日、暦月で計算されるので、「1日遅く退職してれば受給できたかも」なんてことも起こります。例えば、2015年8月1日に入社し、2016年7月30日で退職したとします。この場合、7月が1日足りないため11と2分の1カ月となってしまうのです(15日以上1カ月未満の月は2分の1カ月となります)。つまり、要件の12カ月に足りないため「基本手当がもらえない」ことになってしまうのです。

「知っておく」ことの大事さ

「会社のルールを知っておく」ことや「自分の生活に関係のある法律を知っておく」ことによって生活設計どころか人生設計まで大きく変わってきます。特に退職金は起業など次のステップへの軍資金であったり、セカンドライフの貴重な財源となったりなど人生を大きく左右する可能性があるものです。

就職先や転職先を選ぶときには「退職金の有無」だけではなく「どういった設計になっているのか」など、可能であれば確認しておくことが大事です。また「退職金がない」「功労金のみ」といった会社であれば、それを見越した貯蓄計画を立てておく必要もあるでしょう。そして、退職を決意した場合にも、しっかりと「知った」うえで退職日を計画することでよい門出を迎えることができるでしょう。逆に「知らない」のは最も恐ろしいことです。

大槻 智之 特定社会保険労務士、大槻経営労務管理事務所代表社員

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おおつき ともゆき / Tomoyuki Otsuki

1972年4月東京都生まれ。日本最大級の社労士事務所である大槻経営労務管理事務所代表社員。株式会社オオツキM 代表取締役。OTSUKI M SINGAPORE PTE,LTD. 代表取締役。社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」は、現在日本国内外の企業500社を顧客に持つ。また人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、220社(社員総数18万人)にサービスを提供する。

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