「業務過多問題」を「長時間労働問題」にするな

「生産性が低いからもっと頑張れ」は無理筋だ

つねに追い詰められ息つくヒマもない。まるで奴隷です(写真:bee / PIXTA)

「長時間労働問題」を「働き方」の問題にするな

「日本の時間当たり労働生産性は低い」と言われる。OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の時間当たり労働生産性を比較してみると、日本は40.1ドルで34カ国中20位。OECD平均の44.6ドルよりも低い。1位ノルウェーの86.6ドルや2位ルクセンブルクの79.7ドルとの差は歴然だ。しかし「だから日本人の労働者の働き方には無駄が多い」というのは論理の飛躍である。

ノルウェーは北海油田を擁する産油国。オイルマネーを元手に国営企業が経済を回し、東京都の半分以下の人口を支えるのだから効率がいい。ルクセンブルクはユーロ圏の金融センターでありながら人口はたった50万人。一方、近年スペインやイタリアの時間当たり労働生産性が向上しているのは、失業者が増えて計算式の分母が縮小しているためというから身も蓋もない。

少ない人数で儲かる仕事だけやっていれば時間当たり労働生産性は上がる。大量の失業者を抱える格差社会でも、皮肉なことに時間当たり労働生産性は高くなる。逆に経営者が無能だったり経済システムが不調だったりすれば、労働者がどんなに優秀でも時間当たり労働生産性は下がる。

個々の労働者の勤労態度より、経済構造そのものがものをいう。つまり、時間当たり労働生産性は個々の労働者の能率を示す数字ではない。日本にはそもそも天然資源がないので、人という資源を大量に使う必要がある。しかも現在は利益率の高い花形の業界が存在しないという構造的な問題もある。

それなのに「日本の時間当たり労働生産性は低い」ことを根拠として、個々の労働者が無駄の多い働き方をしているかのように言うのは、論理として乱暴すぎる。日本人の自己肯定感が低いことは有名だが、さらに自責的な気持ちにして得をするのは誰か……。

成果は落とさず労働時間を減らすのは基本無理

景気停滞期に入って以降、「就職氷河期」に象徴されるように人員は減らされ、トヨタの「カイゼン」に代表されるように業務はすでに極限まで効率化されている。

拙著『ルポ 父親たちの葛藤 仕事と家庭の両立は夢なのか』で描いたように、特に子育て世代は、仕事と家事と育児の両立で、1日24時間ではとても足りないような生活を送っている。彼らに対し、「日本の時間当たり労働生産性は低い」から「本当はまだまだできるだろう」というのは無理筋だ。

さらに企業経営者に「日本の時間当たり労働生産性は低い。だから成果を落とさずに労働時間を減らすことは可能だ」と喧伝することは、1粒でも多く年貢をせしめようとする悪代官の手下の手口のようである。百姓はつねに追いつめられ息つく暇もなくなる。まるで奴隷だ。

ましてや「労働時間を削減すると売り上げが上がる」なんて「食べるとやせる」みたいな話。ほとんど詐欺だ。労働時間を削減したから売り上げが上がるのではなく、業界に追い風が吹いているから労働時間が削減できたのだと解釈するのが普通だろう。

仕事の仕方にメリハリをつければたしかに能率は上がるが、徹底した業務効率化の過程で、そんなことはすでに多くの人が実践している。日本の企業では無駄な会議が多いという指摘も事実である。だから定期的に会議体の見直しを行う。それでもしばらくすると無駄な会議は増えてくるものだ。ときどき断捨離しなければいけないのは日常生活と同じ。日本だけでもない人間の性である。そんなところに日本の時間当たり労働生産性の低さの根本的な原因があるわけでもないだろう。

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