「宇宙飛行士はもともと資質が非常に高いので、基本的に自分がやらなければならないことはわかっている。リーダーの仕事はそれぞれの能力を見極めて、仕事がしやすい環境を作ってあげること。
リーダーから指示を出すよりはミーティングで意見を言ってもらい、納得したうえで一体感を持って仕事をすることが大事」と油井は考え、ミーティングでは意見が言いやすい雰囲気作りを心掛けた。
もちろん、リーダーとして決断を下すときには勇気が必要だ。「本当にこれで正しいのか、100%の自信はありません。でもチームの方向性が決まったらリーダーは不安を見せてはいけない。自信をもったふりをしてにこやかに言うことが大切です」。
出発直前にはさらに雨風が強まった。だがメンバーたちにフォローされ、油井は地図の判読、休憩の指示、低体温対策などリーダーとしての作業をこなし、結果として、計画どおりの場所に予定より早く到着することができたのだった。
NASAが学んだ、チームワークの重要性
NOLSは約45年の歴史があり、NASAだけの訓練でなく、グーグルやメリルリンチなど米国の大手企業や大学、青少年のための訓練など豊富なメニューを用意している。
NASAがこの訓練を取り入れるようになったきっかけは1990年代にさかのぼる。ISS計画にロシアが参加することになり、事前準備としてロシアの宇宙ステーション・ミールにNASA飛行士が搭乗したところ、現場での軋轢は想像以上に大きかった。
自分の実験棟に引きこもったり、抑鬱状態になったりする宇宙飛行士もいた。ミールが老朽化していたこともあり、火災や空気漏れなど、命の危険にかかわる緊急事態も多発した。
こうした苦い経験からNASAは多くのことを学んだ。多国籍の宇宙飛行士が共に長期間暮らすISSでは「異なる文化を持つ相手にいかに自分たちが合わせ、共にミッションを達成していくか」というチームワーク訓練の必要性が認識されたのだ。
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