「松陰神社前駅」は、いったい何がスゴイのか

老舗煎餅店が世田谷線沿いの街を選んだワケ

この4月に松陰神社前に、約150年ぶりに路面店を出した松崎煎餅。もともと飲食店だった店を改装、この街の雰囲気に合わせ、やり過ぎない内装を心がけた。野菜主体のランチも好評だという

銀座並木通り。ここに銀座松崎煎餅が移転、店を構えたのは元号が明治に変わる3年前、1865年(慶応元年)5月のことだ。店自体の創業は遡ること61年前の1804年(文化元年)5月。場所は芝魚籃坂だった。

その松崎煎餅が2016年4月、銀座に次ぐ路面店を出した。あえて「銀座」の屋号をとった新店舗では、定番のせんべいや瓦せんべいを扱うほか、カフェスペースを併設し、あんみつやお汁粉などの甘味からハンドドリップコーヒー、近所のオーガニックカフェが手がけるランチまで提供。コンセプトは「気軽に立ち寄れる街のおせんべい屋さん」だ。

さて、その老舗中の老舗が新たな店舗を出すのに選んだ場所は、世田谷区松陰神社前。東急田園都市線三軒茶屋駅から東京に残る路面電車2路線のうちの1線、東急世田谷線で3駅目の街である。

松陰神社前――どこそれ?と思う人も少なくないだろう。私はここ7~8年、メディアの取材で「今面白い街、これから来る街はどこですか?」と聞かれると、必ず「松陰神社前」と「西小山」を挙げていたのだが、駅名を聞くとたいていの人が不思議な顔をする。

「どこですか、それ?」ならまだいい。ひどい人は「萩ですか?」と尋ねてくる。山口県萩市が生んだ明治維新の精神的指導者、吉田松陰を祀った神社があるのは確かだが、だからといって萩とは。松陰神社前は都内においてすら、一般にはあまり知られていない街なのである。

代官山も青山もしっくりこなかった

ではなぜ、200余年の歴史を持つ老舗がこの街を選んだのか。松崎煎餅八代目の松崎宗平氏によると、銀座以外に路面店を出すというアイデア自体は同氏がITベンチャーから家業に転じた5年ほど前からあったという。多様化する菓子業界の中、ブランド・店舗の数も増えており、手土産の選択肢が多くなった今、どうやって選んでもらうかを考えた結果だ。

「父と私は原宿の瑞穂さんや銀座の空也さんのような、一つの商品でずっと愛され続けている、街の菓子屋さんのような存在が、この時代における商いの完成形のひとつだと思っています。細く長く正直に美味しいモノを作り続けたいのです。そのためにはちゃんとお客様と向かい合って商品、店を知っていただき、選んでいただく必要がありますが、銀座やデパートでは敷居が高いイメージを持たれる方も少なくなく、お客様との距離を感じることも。そこで住んでいる人が多く、長く続けられそうな街に地域密着型の路面店を出そうと考えたのです」(松崎氏)

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