現代を読み解くカギ。中二という病 反逆のカリスマ不在と「もっと私を見て」

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家庭像の変容がもたらしたもの?

現代の思春期的ファンタジーには、反逆のカリスマが登場しないのです。

本来、思春期は自らの価値を再構築する時期。だからこそかつて第二反抗期と呼ばれたこの時代に、若者は青臭い理想主義や、リベラルな思想にかぶれ、社会に対する理由なき反抗を感じたものでした。

かつて昭和期、尾崎豊氏のように「大人のつくった秩序からの卒業」を掲げ、強い支持を集める反逆のカリスマが登場したこともありました。

ですが「中二病」と呼ばれる現代の若者のファンタジーは、社会への反発よりも、自己の能力や宿命に対する空想が主題。具体的にいうと、悪魔を祓う眼力といった超自然的な能力や、自分が代々受け継がれてきた、邪悪と戦う一族の末裔であるといった空想が中心になっています。

なぜこのように変化したのでしょうか。おそらくそれは家庭像の変容が原因ではないかと思います。

かつては親、特に父親は子どもにとってある意味、越えなければならない壁であり、自分を抑圧する社会の象徴でした。

ですが現代の親は違います。家庭内の軋轢を避ける傾向があり、壁というよりもむしろ友達。聴いている音楽や見ているテレビ番組も共通し、同じ話題で盛り上がることができます。また、かつてと違い着ている服も同じです。

「じゃあ仲よくていいじゃないか」という話なのですが、ここが人間の不思議なところで、抑圧がなくなった結果、現代の若者はしばしば「もっと自分を見てほしい」という自己承認欲求に悩むようになっているといわれます。

実際、現代では反逆のカリスマは、もはや若者向けの商業では主役ではなくなり、むしろ「もっと私を見て」というメッセージを発信するアーティストが支持を広げています。三島由紀夫ではなく、太宰治の時代ということでしょうか。

これは日本だけではなく、たとえばレディー・ガガさんなども、この系譜の歌手だと思います。

そしておそらく若者だけではなく、大人にまでこの気持ちが広がっているのが、現代の世の中ではないでしょうか。

【初出:2012.11.24「週刊東洋経済(ソフトバンクの世界作戦)」

 

 


(担当者通信欄)

三島由紀夫と太宰治、納得です。両方とも愛読していた自分を振り返ると、従来型の思春期と中二病の混合タイプだったのかもしれません。ここ数年を振り返ると、反逆といえば○ルーシュが最初に思い浮かびます。

さて、堀田純司先生の「夜明けの自宅警備日誌」の最新の記事は2012年11月26日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、新流通モンスターアマゾン)」で読めます!
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堀田先生の近刊紹介。中年の青春小説『オッサンフォー(講談社、2012年)。詐欺師四人組が大阪を舞台に繰り広げる事件も、ぜひ本コラムとごいっしょに♪
 

 


 

堀田 純司 作家

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ほった じゅんじ / Junji Hotta

1969年3月8日、大阪府大阪市生まれ。桃山学院高等学校を中退後、大検を経て、上智大学文学部ドイツ文学科卒業。漫画誌編集者などを経て自身の著作を発表するようになる。文芸、科学、社会問題、メディア、ポップカルチャー等々、幅広く関心を持つ。著書に“中年の青春小説”『オッサンフォー』(講談社、2012年)、『僕とツンデレとハイデガー』(講談社、2011年)、『人とロボットの秘密』(講談社、2008年)などがある。編集者としても『生協の白石さん』(講談社、2005年)などのヒット作を手がけている。2010年には各分野の書き手とともに「作家が自分たちで作る日本で初めての電子雑誌」『AiR(エア)』を刊行し注目を集めた。続く『AiR2(エアツー)』(2011年)、『AiR3(エアスリー)』(2012年)も好調に刊行。
⇒【Twitter(@h_taj)

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