神奈川県のある工場の多い地域、中小の工場と民家が入り交じる街のアパートに、現在、非正規で食品工場に勤める山口恭子さん(仮名)は住んでいる。家賃6万円。9年前、国立大学大学院修士課程を卒業し、有名企業に就職のため上京。一部上場メーカーの商品開発部に勤めたときから住んでいるアパートだ。
インターホンを押すと、恭子さんは玄関を開けて顔をのぞかせた。童顔でかわいらしく、年齢より若い。部屋の中に入ると、カーテンは閉めっぱなしで薄暗かった。部屋の掃除はしていないようで、フローリングの床にはゴミやホコリが何重にも積もっている。備え付けのベッドの周りや部屋の四角には洋服や新聞、書籍が散らばり、足の踏み場がないほどだった。
掃除機は一度もかけたことがない
「掃除機の音が怖くて、掃除できないんです。あの大きな音は、なにか男の人に怒鳴られているような感じがするから。たまに掃き掃除くらいはしますけど、収納がないので全部は片付けられないし」
小さな1DK。折り畳み式のイスになんとか座って、話を聞くことにした。自覚はないようだったが、貧困女性の取材と伝えてある。1週間前に支給された平成28年3月分の給与明細を見せてもらった。支給総額は17万円ちょうど。厚生年金と雇用保険、健康保険、所得税で2万8700円が控除され、差引支給額は14万1300円だった。
「非正規なのでボーナスはありません。年収200万円です。29歳のとき新卒入社した会社を辞めて、それから介護職になりました。そこはすさまじいブラックな施設で、長時間労働とか残業代が支給されないとか、パワハラとかすごかった。辞めてもほかに行き場所がないので、我慢に我慢をしてきたけど、去年の年末に限界を超えたので辞めました。いろいろ仕事を探して、やっと見つかったのが今の工場です。給料安いけど、介護のときみたいにブラック労働がないのでいいです。みんな優しいので続けていけそうです」
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