カルピスバターを「幻」にする日本の酪農行政 国家管理下にある原料、働かない競争原理
高級食材店に入荷次第の取り置きを頼んでおかなければ手に入らない――。一流のシェフやパティシエがこぞって絶讃――。ここ数年、小売りの店頭で見かけることはほとんどなく、文字通り幻と化していたカルピスバター。ところが、2015年12月上旬になって、突然店頭に姿を現した。
当時、都内のあるショップの店舗スタッフは「本部が購入して各店舗に割り当てている。久々に入荷したが、ここに出したものが手持ち在庫のすべて。バックヤードに在庫はない。次いつ入荷するかはわからない」と言っていた。しかし5カ月近く経過した今も、高級食材店の店頭には十分な量の商品が置かれている。
一昨年から昨年にかけてバター不足が社会問題化した結果、その原因をメディアが取り上げるようになった。今年3月には、酪農行政に携わった経験を持つ、元農水官僚・山下一仁氏が『バターが買えない不都合な真実』を上梓し、謎解きをしてみせた。その中で、バターは原料となる生乳の供給から製品の生産量に至るまで国家管理下にあり、民間が自由に輸入することも事実上規制されている。不足感があるくらいの供給量がベストと考える、複雑で前近代的な日本の酪農行政の不合理さが、あますところなく解説されている。
カルピスの副産物として誕生したバター
カルピスバターは普及品とは一線を画す食材だ。高付加価値品は通常、原料調達においても強い競争力を発揮するものだが、日本の酪農行政は原料調達における自由競争を許さない。カルピスバターがここ数年店頭から姿を消し、文字通り幻となったのも、そして昨年12月に突然姿を現したのも、すべては日本の酪農行政の不合理さゆえの現象だ。
カルピスバターは、生乳からカルピスの製造に使う脱脂乳を抽出する際に出る脂肪分が原料で、副産物の有効活用から誕生した。1963年の発売から50年以上の歴史を持つロングセラーで、当初は業務用としてのみ売られていたが、1981年に「特撰バター」という商品名を付け、小売り用でも販売するようになった。
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