大前研一「高齢者のやけっぱち消費を狙え!」 理論ではなく「心理」が経済を動かす

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一方、企業は利益余剰金を354兆円も貯め込みました。不況になって1980年時点の50兆円が350兆円になったのです。1989年12月にバブル崩壊が始まりましたが、個人資産はこの25年間で735兆円も積み上がっています。このお金を消費に向かわせればいいわけですが、この資金を強制的に市場に導くには、資産課税を重くすればいいのです。

死ぬ瞬間に一番金持ちになる日本人

すると、じっとしているだけでどんどん目減りしてしまうのですから、それなら人生をエンジョイするために使ったほうがいいな、と皆思うはずです。「死ぬ瞬間に、ああ、いい人生だった、と思いたくありませんか? 皆さん人生をもっとエンジョイしましょう」と、首相が国民に呼びかけて、その気にさせないと、このお金はマーケットに出てきません。そして「その代わりに皆さんが病気になったら国がとことん全部、面倒をみます」と言えばいいのです。

スウェーデンでは貯金をする人がいません。国が面倒をみてくれるのですから、貯金はゼロでいいのです。年金、保険、貯金と3つともすべてやっている、しかも年金の3割を貯金に回している日本人は、死ぬ間際に、自分の人生においてもっとも金持ちになってしまうわけです。日本人は誰も国を信用していません。誰も国の将来が明るいと思っていないのです。日本人は、国が何と言っても絶対に我々を裏切るよねと考えているので、いざという時のために貯金していて、最期にキャッシュがいちばん貯まるのです。

お金はあの世には持って行けません。ではどうしたらいいか?

昔は生前贈与という制度を使って、生きている間に財産を子供などに譲る人が結構いましたが、今はほとんどの人がこの制度を使っていません。なぜかというと、多くの人たちは、自分の財産を人に譲ってしまったらいざという時に誰も助けてくれないと思っているからです。

したがって最後まで抑止力としてこの金を持っている。抑止力としての貯金です。これは統計を取ると非常にハッキリ分かります。このお金を何に使いますかと聞くと、ほとんどの人が「それはいざという時のためです」と答えています。昔は子孫に残すという考えがありましたが、今は全然違います。日本人は国を信用していないだけではなく、自分の子孫も信用していないのです。

その一方で、人生最期の瞬間にこんなに余ってしまうのなら、もっとこういうことやあんなことをやっておけばよかった、と思っている人も結構います。そこで「なげやり消費」「やけっぱち消費」に走るわけです。

この点ではJR九州はよく考えて頑張っています。豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」というものがあります。3泊4日の旅程でお2人様120万円。申し込みの倍率は100倍だそうです。しかも、帰る時に次の予約をしていく人が10組に1組ほどいると言うのですから驚きです。

貯めたお金は天国までは持っていけないので、たとえ100万円以上でも、2回でも3回でも行こう、と思うわけです。

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