――熊本県内を震源とした大地震により、九州電力・川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)を初めとする九州・中国・四国地方の原発の安全性が懸念されています。住民避難の視点から『原発避難計画の検証』(合同出版刊、2014年1月)を上梓した交通政策の専門家の視点からどのようにご覧になっていますか。
東京電力・福島第一原子力発電所の事故では津波被害が大きかったこともあり、これまでは津波被害に関心が偏っていた。しかし今回の熊本地震では地震による被害がきわめて大きかった。地面が割れ、橋が落ち、山崩れが起き、交通があちこちで寸断された事態を目の当たりにして、万が一原発事故を伴う複合災害に発展した場合、逃げられない住民が続出するのではないかとの懸念を強く抱いた。
川内原発、現実味のない鹿児島県の避難計画
――鹿児島県が作成した「避難時間シミュレーション結果」によれば、川内原発で大事故が起きた場合に、半径30キロメートル圏内に住む約21万人が30キロ圏外に避難するまでの所要時間(注:正確には、半径5キロ圏内への避難指示があった時から、30キロ圏内の住民の90%が30キロ圏外に到達するまでの所要時間)は、「1台のクルマに4人が乗り合わせた場合」(交通誘導なし)で「11時間45分」、「国道270号が通行できない場合」で「22時間30分」などとなっています。
この推計はまったく現実味がない。川内原発周辺から30キロ圏外に脱出するためには、薩摩半島の山間部を通らざるをえないが、土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域が至るところにある。これらはもともと水害を念頭に置いたものだが、強い地震でも同じような被害が出るだろう。避難経路上には多くの川があり、1カ所でも橋が落ちればまったく通れなくなる。いったん不通になると2~3日で復旧できるものでもない。
私の試算によれば、道路ネットワークが完全ならば16時間前後で30キロ圏外に避難できるケースでも、5%が損傷した場合は約32時間、同10%で約98時間となった。これ以上の損傷があると極端な詰まりが発生して、計算は事実上、不能になる。
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