東芝、国から迫られた「賠償金12億円」の顛末 防衛事業をやり続ける必要があるのか

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当初から新型偵察ポッドを輸入品にしていれば、東日本大震災までRF-15Jは完全に戦力化されていただろう。そうであればリアルタイムで被災状況を把握でき、より適切な救助作業が可能で、より多くの被災者の命が救えただろう。防衛省、空自は阪神淡路大震災という「戦訓」を全く生かしていなかった。先の大震災で大失態を演じながら旧式偵察機を放置して、更新の計画も示さない防衛省、空自は当事者能力が問われて然るべきだろう。だがメディアも政治もこのことを追求したことはない。

復興特会で開発中のC-2を調達するならば、むしろその予算で偵察ポッドを輸入して一気にRF-15Jを整備、戦力化する方が復興特会の趣旨に合致していたはずだ。繰り返すが防衛省・空自は何故戦術偵察機の更新をしないか、納税者に説明責任を果たしているとは言いがたい。

今回の問題は防衛産業にも大きな衝撃を与えたはずだ。多少とも瑕疵があればいつ契約を解除され、補償を要求されるか分からないからだ。防衛省側の都合や担当者の気まぐれで、下手をすれば何百億円、何千億円というビジネスが途中でキャンセルになり、営業利益の5年、10年分といった多額の補償を要求されることになる。これは企業にとって極めて大きなリスクと言わざるを得ない。

投資分を確実に回収できるビジネス

メーカーにとって防衛産業の最大の旨味は利益が低いとはいえ、必ず投資分を回収できることだ。ところがこのような事態が起こればそのメリットは吹き飛ぶ。極めて不透明な契約のまま、このようなリスクを許容することは企業にとっては難しいだろう。上場企業では経営側がよしとしても、株主が問題視するだろう。同じようなことが起きた場合、経営陣は、代表株主訴訟も含めて株主からその責任を問われ兼ねない。

さらに防衛装備の能力低下も懸念される。一般に画期的で高い性能の装備を開発すると、失敗するリスクも高くなる。対して無難な線でまとめるのであれば、リスクは下がる。このようなキャンセルが続けば、果敢に高性能な装備の開発に手を挙げる企業が減っていくという目に見えない国防上のリスクも増大する。

大手企業の防衛部門の売上比率は大抵数パーセント程度である。そして将来的に市場が拡大するビジネスでもない。防衛費が大幅に増大する見込みはなく、売上は今後も年々下がっていくだろう。しかも弾薬や装甲車を製造しているコマツのように本業とのシナジー効果が得られない企業も多い。防衛装備は最先端技術で高性能と思われがちだが、売上が少ないために設備投資や研究開発に投資ができず、古い設備や技術しかない企業も少なくない。

防衛部門を持っていると体裁が悪いと考え、ホームページで防衛関連の事業をおこなっていると紹介していない企業も少なくない。これはIRの視点からも大きな問題だが、そこほどまでに防衛部門の存在を隠したいのだ。このような企業は政府が武器輸出の規制を緩めても、輸出をすると「死の商人」と批判されることを恐れて輸出には消極的だ。輸出もしないのであれば、その企業の防衛部門は将来規模の拡大も期待できない。徐々に売上が落ちて、いつかは事業として維持できなる水準となって、その時は廃業・撤退することになるだろう。「この程度の意識」で防衛部門を維持しているメーカーにまともな装備が開発・生産できるのは大変疑問だろう。

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