東芝、国から迫られた「賠償金12億円」の顛末 防衛事業をやり続ける必要があるのか

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この偵察ポッドの選定に関しては当初、三菱電機、NEC、東芝に加えて、海外メーカー数社が提案していた。だが防衛省、空自は国産にしたいため、難癖をつけて海外製品を退けた。ところが光学系センサーに強く、本命とされていた三菱電機がこの時期には不祥事で防衛省と取引停止となっていた。

その結果として、東芝が受注した経緯がある。だが東芝は光学系のセンサー関連技術が弱いことは技術研究本部をはじめ防衛省も知っていたはずだ。しかも三菱電機にしても東芝にしても国内メーカーに偵察用ポッド開発の実績はなかった。

それにも係わらず、防衛省は東芝に発注したのだ。それは防衛省、空幕は東芝に開発能力があると判断したからだろう。東芝を選定した当局にも責任がある。

空自は東芝の設計提案を承認していた

やや専門的な話になるが、戦術用偵察ポッドは増槽のような形をした単体のポッドに光学系のセンサーやレーダーなどを組み込んだものだ。近年は一つのポッドにシステムが組み込まれる事が多い。だが東芝が開発中だったものは、光学系と電子系の2つのポッドに分けたものだった。恐らくはシステムを小型化し、一つのポッドにまとめる能力がなかったためだろうが、これを搭載するためにはハードポイントが二箇所必要であり、その分兵装や増槽の搭載が減ってしまう。これは大きな欠点だが、空自はこれを是としていた。

しかも東芝のシステムのコア・コンポーネントは外国製であった。外国製のコンポーネントを組み上げて国産の筐体に押し込めたものを「国産装備」として外国製の何倍も高いコストで調達する必要があったのだろうか。実は「国産兵器」にはこの類が多い。この手の「国産兵器」を調達する意義があるのだろうか。少なくともこのプロジェクトは能力があると見られていた三菱電機に発注できなかった段階で計画を見直すべきだった。

その上、防衛省、自衛隊、そしてメーカーの責任の所在も曖昧であり、関係者すべてに当事者意識が欠けていた。また性能が十分でないならキャンセルという基準も曖昧だった。防衛省の「難ありプロジェクト」に対するキャンセルの規定もはっきりしない。

空自の新型輸送機C-2は川崎重工が開発しているが、強度不足や十分な性能が出なかったために開発が遅れて、開発費、調達費も高騰している。C-2の開発費は当初1800億円だったが、その後2600億円、約1.45倍まで高騰している。調達単価は予定の約100億円から約200へと2倍に膨れ上がっている。にもかかわらず、空自はプロジェクトをキャンセルせず、やっと今年度に開発が完了した。

C-2は開発が遅滞して開発完了の見込みが立たなかったにもかかわらず、防衛省は開発終了を待たずに2011年から8機を発注している。その中には先の東日本大震災の復興特別会計から2機、約400億円が支出されている。緊急に災害対策として輸送機が必要ということならば、すぐ入手可能な完成機、あるいは中古機の輸入ならばまだ理解できる。開発が完了してもいない機体を、復興や防災に緊急に必要だとして復興特会で調達したことには、政策的にも道義的にも大きな問題だろう。

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