プロ野球「私設応援団」の知られざる世界 年間80試合の観戦と仕事を両立できる方法

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Bさんの夫は筋金入りの広島ファン。義母も野球好きで、Bさんと連れだっての観戦も珍しくない。Bさん夫婦にはまだ子どもはいないが、「観戦仲間が代わる代わる面倒を見るので、子持ちの仲間は気軽に球場へ子連れで来ている」という。Aさん同様、地方へ行く際の旅費は早割やパックツアーをフル活用する。このため、「野球観戦に年間いくら使っているのか、正直ほとんど意識したことがない」と言うが、夫や義母に理解がなければ遠征どころか球場通いも難しいだろう。

前出のロッテファンのAさんは「自分は独身だから野球観戦にどれだけおカネを使っても誰かにとやかく言われることはないが、既婚者は配偶者が理解ある人じゃないと難しい。外野席で知り合って結婚した夫婦は二人で来続け、子どもが生まれれば子連れでやって来る。結婚後いつの間にか来なくなる人は、配偶者が許さないのかもしれない」と見る。

求められる高い「仕切り」能力

年間数十試合単位で球場に足を運ぶファンの中には、応援団員よりも観戦試合数が多かったり、ファン歴が長かったり、選手、チーム、そして野球そのものをよく知っていたりすることがある。その分、応援団員にプロ並みの水準を要求しがちになるという。

前出のAさんは「ロッテの場合は2009年にもともとやっていた応援団が球団と衝突して解散しており、現在の応援団は翌シーズンに誕生している。経験年数が浅く、ファンの方が応援のバリエーションに通じていたりするから、ファン心理を忖度し、ファンが望むタイミングで、望む応援歌を使う誘導を出来ない人も中にはいる。そういう人にはファンからブーイングが出る。今は応援エリアが決まっているからチケット確保の苦労はないが、応援団員が長続きせず入れ替わりが激しいのは、ボランティアなのに心理的な負担が大きいからかもしれない」と、同情的だ。

濃厚な人間関係に身を置き、かつコアなファンからプロ並の“仕切り”を求められる私設応援団。なぜ彼らはあれほど献身的になれるのか。

2002年シーズンを最後に現役を引退したヤクルトスワローズの池山隆寛選手は、同年10月の引退試合のスピーチで、「ライトスタンドの岡田のオヤジ、ありがとう!」と叫んだ。この3か月前に亡くなった名物応援団長・岡田正泰氏に向けた感謝の言葉だったわけだが、応援団員はオフシーズンに選手や監督と交流の場を持つ機会もあり、中には選手から慕われる人たちもいる。彼らのモチベーションを支えているのは、選手や外野席のファンが投げかける、労いや感謝のひとことなのかもしれない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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