鴻海がシャープの買収に固執する本当の理由 シャープには「郭会長の夢」がある
2016年2月24日の朝、1本の電子メールが台湾北部・新北市土城にある鴻海精密工業オフィスのコンピュータに届いた。その内容はまるで爆弾が炸裂したかのように鴻海とシャープがそれまで進めていた交渉のスケジュールを破壊し、郭台銘(テリー・ゴー)会長が十中八九は確実と考えていた合併のシナリオをかき乱した。
「偶発債務」の提示に鴻海会長が怒り狂った
中国にいた郭会長は、このリストが送られてきたことを知って「怒り狂った」という。
この激しい事態の展開に対し、多くの国際的なM&A(企業の売買収)に参加した経験を持つ会計士は、「実に不思議だ」と語る。この会計士は一般的に国際的なM&Aは、そのほとんどが3つの段階を経るという。その第1段階は、買収の意志がある買い手を募集し、売り手側は基本的な資料を提供する。これに基づいて交渉資格を誰に与えるかどうかを決定し、意向書にサインする。続く第2段階では、交渉資格を得た買い手側が細部に関する実地調査に入る。売り手側はこの段階でさらに詳細な資料を提供し、買い手側はそれを評価し、買収額を提示する。
そして最後の第3段階である正式契約前になると、双方は契約の草案を作成する。しかも、草案が定める売り手側の各種資料や財務情報は、双方が合意する契約に即したものでなければならない。このため、本来ならばシャープが正式契約を決める役員会の前日になって、新しいリストを提示することはあり得ない、となる。
しかし、鴻海が発表した声明は「その(リスト)中の大部分の内容は、双方のこれまでの交渉の過程で、提出または告知されなかったものだ」と指摘している。つまり、鴻海はこれらの内容を事前に知らされておらず、評価の対象に入っていない「偶発債務」だと認識したのである。
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