鴻海がシャープの買収に固執する本当の理由 シャープには「郭会長の夢」がある

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「これは、アップルのノートパソコンにも将来、IGZOパネル技術が採用されるということだ。鴻海がシャープの買収に成功すれば、パネルでの競争力が高まり、アップルからノートパソコンの代理生産を順調に受注できる可能性が高まる」(邱宇彬氏)。アップルは2015年に1500万台のノートパソコンを販売しており、ノートパソコン市場が逆境にある中で、唯一の成長ブランドとなっている。

資訊工業策進会(III)IEK(工業研究院産業経済・情報サービスセンター)所長の詹文男氏は、「シャープはハイエンドの液晶パネル技術を持つだけでなく、著名ブランドをも持っており、家電製品の生産ラインは完備している。

鴻海がスマートハウスの分野に進出するに当たって、大きな助力になる」と語る。工業技術研究院知識経済・競争力センターの陳清文・首席研究員は「鴻海の大資金プラスシャープの高技術=産業の勝ち組コンビ」という式を提示する。今のところ不確定要素があることはあるが、台湾企業の歴史で最大規模となる今回の海外M&Aをこのように形容している。

シャープ買収に失敗すれば経営危機発生も

未来の想像から現実世界に引き戻そう。もし、シャープの買収に成功したとして、郭会長が直ちに直面する厳しい課題は何か。それは、閉鎖性・排外性ともに極めて強い日本の大企業の官僚文化を打破し、鴻海の遺伝子を注入し、シャープを徹底的に改造し、短期間内に赤字を縮小し、黒字に転換させるかだ。

もしそれができなければどうなるか。シャープに資本参加した後の鴻海の持ち株比率は、経営を掌握できる44.5%となる。シャープが前年度と同じように660億台湾ドル(約2300億円)の赤字を出すと仮定して試算すると、鴻海は44.5%の損失、つまり290億台湾ドル(約1010億円)の損失を計上することになり、EPS(1株当たりの税引後利益)は1.85台湾ドル(約6.45円)減る。

こうした損失は、鴻海の財務体質から見てカバーするに十分だが、すでに弱含みとなっている鴻海の株価に対して、極めて大きな殺傷力をもたらすことになるだろう。

(台湾『今周刊』2016年3月7日号より)

許 秀恵 台湾「今周刊」記者
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