JR東日本の業績が「長いトンネル」に入る理由 今期の最高益から一転、来期は減益の可能性

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開業から30年以上が過ぎ、経年劣化への対策が課題に(撮影:尾形文繁)

引当金の積み立ては2016年度から始まる。3600億円を15年で割ると240億円になる。つまり、来期から毎年240億円ずつ営業費用が増えることになるのだ。

すでに大規模改修に着手しているJR東海は、2002年10月から引当金の積み立てを始めた。積み立て初年度に当たる2002年度は、新幹線の利用者が低迷したことに加え、引当金積立額として166億円を営業費用に計上した結果、営業減益を強いられた。

JR東日本は2010年度から毎期、営業利益を増やし続けている。その増益幅は2010~2015年度の5年間で年平均165億円。2012~2015年度の3年間だと225億円となる。

これに対し、引当金の積立額は年240億円。2016年度は新幹線や在来線がどの程度の収入をもたらすかは不確定だが、いずれにせよ、引当金積み立てが来期の営業利益に大きなインパクトを与えることは間違いない。

改修費用は変動する可能性も

なお、大規模改修の総額は変更になることもある。実際、JR東海は大規模改修の費用を当初1兆0971億円と見込んでいたが、その後の技術開発により、総額を7308億円に削減することに成功した。このように、JR東日本も将来の技術開発により、コストや工期を削減できる可能性はある。

JR東日本の申請から1週間後の2月24日、JR西日本も山陽新幹線の大規模改修を国土交通省に申請した。工事は2028~2038年の10年間。橋梁、トンネル、法面などのインフラ改修を行うという点ではJR東日本と同じだ。

ただ、費用総額は1557億円、毎期の引当金積立額も41億円とJR東日本に比べて少ない。山陽新幹線では1999年にコンクリート剥落が相次いだことから、すでに橋梁やトンネルのコンクリート部分を補修していたためだ。

新幹線というと、スピード競争など華やかな面ばかりが注目されがちだが、橋やトンネルなどの土木構造物が安全運行を支えている点も認識しておくべきだろう。そして、こうしたインフラ部分の機能維持にも多額のコストがかかっている。JR東日本の来期業績を分析する際は、こうした事情を頭の片隅に置いておいたほうがいいかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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