稼ぎより意義重視、変わる若者の「人生観」 アメリカンドリームなき今をどう生きる?

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取材で出会った18歳の高校生は、アッパーミドルクラスの両親の元、郊外の邸宅に住む高校生。何不自由のない生活ですが、個人的に古いノートパソコンを集めて開発国の子供たちに贈るプロジェクトを自ら立ち上げ、ボランティアに邁進しています。こうした活動が自然にできるのもミレニアルズの特色かもしれません。

ちなみに、この裕福な家庭に育った彼は、自身は恵まれているのにも関わらず、最低賃金の引き上げや国立大無償化を訴えているサンダースを大統領選で熱烈に支持しています。

ベネフィット・コーポレーションの台頭

ミレニアルズの起業家志向と、社会貢献意識が結びついて注目されているのが、ベネフィット・コーポレーションです。

ノンプロフィットではなく、利益を追求する株式会社でありながら、会社の定款に「社会貢献」を掲げ、利益の一部をチャリティーや地球環境を守るノンプロフィットなどに寄付することをうたっています。その一方で、投資家の利益追求が「社会貢献」を妨げることがないように、法の上で保護されている新しい形の企業の形です。現在、米国の30州で認められていて、クラウドファンディングの最大手キックスターターも、昨年ベネフィット・コーポレーションとして生まれ変わりました。

27歳のオーナーが2012年に起業したアイスティーのスタートアップ 「ハート・オブ・ティー」は利益の3割を地元のホームレス・サービスに寄付することをうたっています。消費者であるミレニアルズがこうしたポリシーに共感して商品を購入しているのは、前回の食の記事で述べた通りです。

こうしてミレニアルズの社会、職業意識を見てくると、決して将来に対して悲観的にならず、たくましくサバイバルするミレニアルズの素顔が浮かび上がってきているように思います。

ピュー研究所のデータでは、ミレニアルズの過半数(51%)は、自分が引退した時に、自分の親世代が持っているレベルの連邦政府の年金はもらえないだろうと考えています。

一方で「政府はもっと社会的なプログラムに力を入れるべきだ」と考える人が過半数(53%)いて、これはジェネレーションX(35歳から50歳まで)の36%、ベビーブーマー(51歳から70歳まで)の28%に比べるとダントツに高くなっています。これは大きなジェネレーション・ギャップです。

というのもそもそも米国人はこれまで、老後以外は政府に面倒を見てもらうのは恥ずかしい、という意味での独立心を強く持って生きてきました。ところがミレニアルズは自分たち生活に、政府に積極的に関ってほしいと望んでいる。いや、政府の力なしではやっていけないと感じているのです。

この考え方が政治的にはリベラル、大きな政府である民主党支持につながり、さらには社会民主党を名乗る大統領候補者バーニー・サンダース支持につながっていることがよくわかります。

アメリカンドリームの未来が危ぶまれている今、たくましくサバイバルするミレニアルズによって、米国社会や価値観も変わろうとしているのです。
 

原田 曜平 マーケティングアナリスト

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はらだ ようへい / Yohei Harada

1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『寡欲都市tokyo』などがある。YouTubeはこちら

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シェリー めぐみ ジャーナリスト、テレビ・ラジオディレクター

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横浜育ち。早稲田大学政経学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。

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