なぜ欧米で市場の不安心理が収まらないのか 原因は金融規制強化による流動性不安だ

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しかし、現在は、欧州の大手銀行に加え、米系の大手投資銀行も中央銀行から流動性供給を受けることが可能である(リーマン・ショック後に、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーは銀行持ち株会社に業態転換した)。もはや、大手金融機関が中央銀行による流動性支援を得ることができず、経営破たんする可能性は低いと言える。

なお、中央銀行や政府が大手金融機関に実施する支援策は、過去に批判された公的資金注入の形だけではなく、たとえば、さまざまな資産買い取りプログラムや、形を変えた流動性支援策(例えば、2011年12月にECB<欧州中央銀行>が導入した36か月LTROなど)など、さまざまなものが考えられるため、リーマン・ショック前に比べて、大規模金融機関が経営破たんする可能性(=金融危機の発生の可能性)は低下していると考えられよう。

市場心理が改善するには何が必要か

ただし、クレジット市場の流動性不安が金融規制強化を主要因にしていると考えるならば、市場で自律的に流動性不安が解消される可能性は低い。流動性不安は大規模金融機関の信用不安には直接つながらないものの、市場参加者のリスクをとる意欲を低下させ、信用収縮を通じて、実体経済に悪影響を及ぼす可能性があることにも留意する必要がある。

この状況を反転させるカタリストは何か。まず重要なのは、市場センチメントを改善させるきっかけ(要因)が出ることであろう。具体的には、
(1)原油価格が 1バレル=50ドルを上回る水準で安定する可能性が高くなること、(2)中国において大幅な元切り下げが実施され、その後大幅な切り下げは実施されないと市場が確信すること、(3)米国経済が リセッションに陥る可能性は低く、かつ、利上げペースは緩やかになると、市場が認識し株式市場を含む資産価格が安定化する、などである。

また、可能性は極めて低いが、クレジット市場の流動性改善に直接影響するような金融政策の発動があるかどうか、注視したい。市場では2月26日から上海で開催予定のG20(先進20カ国財務相・中央銀行総裁会議)での政策協調が期待されている。仮に政策協調がなされた場合に、その内容がクレジット市場の流動性に直接的に影響するものか否かを見極めたい。

大橋 英敏 みずほ証券チーフクレジットストラテジスト

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おおはし・ひでとし

おおはし・ひでとし みずほ証券リサーチグループ シニアエグゼクティブ兼金融市場調査部 チーフクレジットストラテジスト。2015年12月よりみずほ証券。同志社大学卒業後、1991〜2000年日本生命保険で運用に携わる。2000年からモルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)、2012年よりジャパン・クレジット・アドバイザリー株式会社を創業。長年、クレジット市場分析を担当。1997年大阪大学大学院で修士号取得(経済学)。『クレジット投資のすべて』等著書多数。

 

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