112円台を円高と騒ぐようでは株価を見誤る 円高に弱い経済構造はいまだ変わっていない

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日米実質金利差で見たドル円は、早々に125円に達するはずだったが、実際に125円レベルに上昇したのは2015年5月とかなり遅かった。さすがにそのときには、日経平均株価は2万円を超える水準を回復するなど、上昇期待がさらに高まっていた。しかし、一方でドル円の適正水準から見た日経平均株価の高値は、せいぜい1万7000円程度であり、2万円はかなり割高だった。そしていま、ドル円が適正レベルである112~113円にまで低下している。

日経平均株価は依然として1万6000円前後で推移しているが、実際には1万4500円からせいぜい1万5000円が適正水準である。この点において、為替相場はかなり調整が進んだが、株価は依然として高いという評価になる。日銀による量的・質的緩和効果の剥落に加え、マイナス金利の効果がなければ、砂上の楼閣はもろくも崩れることになるだろう。

金利低下で金の保有コストが低下

このように、人為的な円安がなければ株価は上昇することができないほど、日本の株式市場は脆弱だということになる。ましてマイナス金利を導入してから、さらに円高が加速している。こうなると、日本株を上昇させるには、金融政策だけでは限界があるということになるのだろう。その意味でも、政策期待が高まるのは仕方がない。しかし、これらの政策は根本的な解決にはならない。

円高をものともしないような経済構造の構築には相当の年月が掛かる。「外需から内需へ」といった掛け声は、90年代から聞かれているが、構造は何も変わっていない。円高に弱い経済構造である以上、今後さらに円高が加速する可能性が高いドル円に対して、日本株が耐えられると考えることに無理がある。

日経平均株価は平成に入ってから50%前後の下落となったケースが5回ある。ザラ場高値からの平均下落率は53%、平均下落期間は23カ月である。今回の下げ相場が過去平均と同じものになれば、来年4月まで下落基調が続き1万円を割り込むことになる。逆説的だが、1万円割れにはドル円が90円を割り込む必要がある。現時点でこのような事態を想定する必要はないだろうが、世界の金融市場の混乱がさらに強まれば、リスク回避先通貨として円が買われ、それが日本株を押し下げる構図がより鮮明になるだろう。

一方、金利低下により、金(ゴールド)の保有コストが低下している。過去にも90年代半ばから2000年代前半に同様のことが起きたが、このときの金相場の歴史的安値圏で粛々と金を買っておけば、その後に金相場は4倍なったこともあり、上昇相場で大きな利益を得ることができていた計算になる。その際と同じ環境が整った今、投資家は金への関心をこれまで以上に高めておくべきであろう。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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