マザーハウスは"外れ値"からパリを目指す ファッションには世界を動かす力がある

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副社長として二人三脚で歩んできた山崎は山口をこう評する。「彼女のすごさは、突破力です。走りながら考えるのではなくて、走ってから考える。まず、やってみる。そして、恐れない。前近代の戦争では、大将が自ら敵陣に乗り込んでいくでしょう。まさに先陣を切って仲間に戦う姿を見せて引っ張っていくタイプです」

山口は、バングラデシュへの同情やマザーハウスへの応援の気持ちではなく、ほかのアパレルブランドと同じようにファッションとしてバッグを買ってもらうために、クオリティには徹底的にこだわった。そうすることが、「援助」ではなくビジネスとして発展的に「働く先を作る」こと、そしてバングラデシュ人が誇りを持つことにつながると信じたからだ。

「本当に自分の手を動かすことが好きで、もっといいモノを作ろうと思って体を動かしてきただけ」と山口は言うが、バングラデシュ人にとっても、日本人にとっても、その小さな背中は守るべきものに見えたのだろう。

彼女の想いと行動力に共感する日本人も増え、人材が人材を呼び、今では日本だけで80人の社員を抱えるまでに成長した。そして、今も山口が多くの時間を過ごすバングラデシュの自社工場では、妥協のないモノ作りをするマザーハウスの評判を聞きつけて腕利きの職人が集うようになり、「自分たちはバングラでナンバーワンのモノを創っている」と自負するほどになっているそうだ。その職人たちこそまさに、10年前に山口が思い描いた理想が実りつつある証だろう。

そこでしか作れない「オンリーワン」がある

"アジア最貧国”でも、アイデアと信じる力、めげない心があれば、ファッションを通じて価値と多様性を示すことができる。

この成功体験によって、山口は確信した。

どんなに貧しい地域だろうと、どんなに社会的にマイノリティの存在だろうと、そこでしか作ることができない「オンリーワン」があり、いい職人がいれば、バングラデシュで得た知見を応用できるはずだ。バングラデシュを飛び出した山口は、途上国でオンリーワンを探す旅に出た。その旅は山口にとって、もはや社会貢献というよりも、宝探しであり、仲間探しだった。

「現地で、この人すごいなって尊敬できる職人さんと出会ったときにすべての物事が動き始めるんです。たとえば、インドネシアで作っている線細工のジュエリーの場合、金で作りたいと思ったらゴールド職人がいなかったので、シルバーの職人を探して、その職人がいたであろう村をひとつ、ひとつ聞き込み調査をして、あそこにいた、という情報を辿っていったらようやく会えました。最近はフィールドが広がって、バングラデシュ以外でもモノ作りができることが最高にハッピーです」

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