マイナス金利でも「外部環境次第」は変わらず 物価上昇につながる経路は不透明

拡大
縮小

手段についても、市場では限界説が公然と指摘されていた。その懸念を払しょくするための手段として、昨年12月に補完措置が導入され、黒田総裁は「政策調整が必要と判断すれば迅速に対応することを可能にする措置」(黒田総裁)と説明していた。

ところが、今回選択したのはマイナス金利。市場が懸念していたQQEのもとでの大規模な国債買い入れに「限界があったということを日銀が認めたとも受け取れる」(国内銀行関係者)との声も、この日の市場で出ていた。

一方、政府サイドでも「国債100兆円への増額は、もはや市場では想定内。ただ、国債を増やしても、打ち止め感が意識されるだけ」(関係者)との見方も台頭。

政府内では、今回のマイナス金利の導入について「サプライズも必要な状況に追い込まれていたのではないか」(関係者)というささやきも聞かれた。

実体経済への効果に疑問も

黒田総裁は29日の会見で、マイナス金利の採用について「量的拡大が限界に達したということではまったくない」と述べ、金利を加えた「3つの次元のオプションを、必要があればちゅうちょなく活用する」と緩和余地を強調した。

物価2%目標の達成が難しくなれば、マイナス金利幅をさらに拡大させる考えを示したが、その物価への波及経路はよく見えない。

総裁は会見で、起点となる金利を引き下げることでイールドカーブ全体の低下を促す一方、予想物価上昇率を引き上げて「実質金利を押し下げ、消費や投資を刺激し、需給ギャップが縮小し、インフレ期待上昇と相まって2%の物価上昇を実現させる」と説明した。

これまでのQQEとほぼ同様の説明だが、長期化する超低金利環境の中で、すでに利ザヤ縮小が「極限まで達している」(地銀)金融機関にとって、貸出金利の低下余地は乏しい。どこまで実体経済にお金を回す誘因になるのか効果を疑問視する声も少なくない。

それでも、マイナス金利導入という奇襲によって、年初から続いていた株安・円高の流れをいったんは止めることには成功した。

 

ただ、中国で人民元の下落が止まらくなったり、原油価格が再び、20ドル方向へ下げつづけるようなら「リスクオフ心理の強まりで、世界的な株安になりかねない」(先の国内金融機関関係者)との懸念が少なくない。

そのケースでは、追加緩和でマイナス金利が深くなる展開も予想される。日銀の金融政策は、海外の経済情勢に左右される構図が当面、継続しそうだ。

 

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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