(第1回)「ストレス」への正しい理解は、対処の第一歩

(第1回)「ストレス」への正しい理解は、対処の第一歩

亀田高志

 ストレス社会といわれて久しい。年代を問わず、職場だけでなく日常生活でもストレスを感じる人は多い。行政による調査でも働く人の6割が強いストレスを感じている。ストレスを感じると人は心身に影響を受け、不適切な行動さえ起こすこともある。高じると不調に陥り、療養を余儀なくされる。

●ストレスの本当の姿

 医学研究から生じた「ストレス」という言葉は、今では日常的に使われている。“上司がストレス”、“残業がストレス”、“会議がストレス”といった表現がされる。日本語として正しいようでも、このような言い方では「ストレス」は正確には理解できない。ストレスを正しく理解し、意識することは、ストレスと上手く付き合うために大切なのだ。

 職場の健康管理では、ストレスは「目の前の状況や問題に対処できないために起きる感情的な反応」と考えられている。この感情的な反応とは、怒り、憤り、悲しみ、不安のようなネガティヴなものである。  例えば職場で上司から仕事を命じられたとしよう。その仕事が経験済みでやり方も分かっていて、時間的にも余裕があれば、嫌なことでなければ、ストレスは感じない。ところがその仕事が初めてで、やり方がわからず、時間的にも余裕がないと判断すると、出来上がるのかという“不安”や無理を強いる上司に“怒り”を感じる。日本語では“仕事がストレス”とか“上司がストレス”という言い方をする。そして、ストレスに苛まれる。

●ストレスを起こすストレッサー

 ストレスを起こす原因を正確には「ストレッサー」という。上記のケースでは上司から与えられた仕事が「ストレッサー」となる。“難しい、間に合いそうにない、無理を強いられている”という判断や印象が心のうちに生じる。判断は経験した結果に基づき、印象には経験した感情に応じて変化するものだ。元来、人はネガティヴな感情を持ちやすい。半ば自動的に“不安”と“怒り”を生じて「ストレス」を感じてしまう。
通常はこのようなプロセスは意識されないものである。この感情的な反応が自動的に起きるように人間にはプログラムされているからだ。言葉を操る文明的な暮らしを送るようになる遥か昔から、哺乳動物として感情を持っていた。生き残りをかけて、結びつきを深めることで、活力のある群れを維持するのに感情が必須だったと言われている。

●ストレスによる反応は本能的なもの

 過度な「ストレス」が心身を害することがある。ストレッサーによって感情が生じ、ストレスを感じながら、心身に反応を起こす。心臓がドキドキしたり、手に汗を握ったりする。このような反応も自動的に起きるのだ。野生の暮らしでは天敵に遭遇することがある。瞬時に戦うか、逃げるかするための準備として、心身の反応が起きる。つまり、食物の消化をやめ、筋肉に血液を充満させる。生き物としての当たり前のことである。
 心身の反応は人によって異なる。楽観的で人生経験が豊富であれば起こしにくい。悲観的で若ければ反応は激しいかもしれない。いわゆる性格や経験によっても、反応が異なることが明らかにされている。また、周囲からのサポートがあるかどうかも、反応を左右することが知られている。職場の上司や同僚、家族が助けてくれる環境にいれば、反応は少なくなるものだ。
 現代は天敵に襲われることはない。しかし、職場や日常のストレッサーは限りない。そのため心身の反応が継続する。一時的には有効な反応も、長期にわたると心身を害してしまう。そのため、心や身体の病気に至る人が増えている。

 現代はストレッサーが限りない。しかし、それに負けないために取るべき手段も豊富にある。ストレッサーを調整すること、ネガティブな感情を解消すること、心身の反応を起きにくくし、起きても処理を上手にすることや不調に気づき早めに専門家に相談することもできる。ストレスや心身の反応を正しく理解し、順序だてて対処することは、活力を維持し、心身の状態を安定させるのに有効である。

 次回は、オフィスで遭遇するかもしれないストレッサーを、日常的な工夫から上手に解消する具体的な方法を紹介する予定である。
2009年3月26日発売
人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門
図でわかる、適切な対応ができる
亀田高志 著

詳細およびご購入はこちらから
亀田高志(かめだ・たかし)
(株)産業医大ソリューションズ 代表取締役社長/医師(HP: http://www.uoeh-s.com/
1991年3月産業医科大学医学部医学科卒業。日本鋼管病院勤務、NKK(現JFEスチール)産業医、日本アイ・ビー・エム(株)産業医、IBM Asia Pacificの産業保健プログラムマネージャーを経て2005年7月より産業医科大学産業医実務研修センター講師。2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。企業のメンタルヘルス対策に関するコンサルティング、様々なメンタルヘルス研修会の講師に加えて、産業医科大学における企業向けメンタルヘルス対策支援事業を担当。
著書は『人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門』(東洋経済新報社)。その他、日経ビジネスオンライン『事例で学ぶメンタルヘルスのツボ』、Work(リクルートワークス社)『健康経営のココロ』を共同執筆。
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