軽井沢バス事故に垣間見る「観光立国」の暗部 なぜ貸し切りバスの惨事はなくならないのか

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こうした安全性確保に向けた模索が続く中で、再び惨事は起きた。

国土交通省は1月22日、再発防止策として、新たにバス事業に参入する際の安全確保に関するチェックの強化や、参入後の監査の実効性の向上などを検討する方針を打ち出した。これまでの施策で事故が防げなかった以上、国によるさらなる対策は不可欠だろう。

業界による自主的な取り組みも重要になってくる。日本バス協会に加盟しているバス事業者の数は2260社。4500社超ある貸し切りバス業者の半分に満たない。今回事故を起こしたイーエスピーも未加盟だ。新規参入の中小事業者を加入させるような取り組みが求められる。

制度順守の監査が最重要

イーエスピーは業界団体に加盟していなかった

ただし、制度の厳格化だけで問題が解決するわけではない。

訪日外国人観光客の増加など、貸し切りバスの需要は拡大傾向にあるものの、労働環境は厳しい。バス運転手の労働時間はほかの産業と比べて長いにもかかわらず、民営バス運転手の平均所得は全産業の男子平均を下回る。若者のなり手が少ないことから、平均年齢も48.4歳と高い。

今回の事故を受けて国交省が設置した「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」の委員を務める、名古屋大学大学院の加藤博和准教授は「リスクの低い若い人を増やせるよう、待遇を改善していくことが不可欠だ」と訴える。

常々激しい価格競争が指摘されるバス業界だが、加藤准教授によると、運転手不足に伴い、正規の運賃を取れる環境になりつつあるという。また、現在の運賃制度でも、安全性を確保したうえで運行できることを証明できれば、国が定めた下限を下回る運賃を届け出て、合法的に低運賃を提供することは可能だ。

「まともな運賃を取れていない会社には、何らかの問題があるとみられる。制度を厳しくするのではなく、現行制度をきちんと守らせるために、こうした業者を重点的・効率的に監査することが重要」と、加藤准教授は指摘する。

若者だけでなく、外国人観光客や国内のアクティブシニアにとっても重要な移動手段となった、貸し切りバス。「観光立国」を標榜するのなら、バスの安全性・信頼性確保は避けて通れない課題だ。

「週刊東洋経済」2016年1月30日号<25日発売>「核心リポート01」に加筆) 

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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