日米で違いすぎる「反緊縮財政」を巡る議論 大御所が見る米国経済「利上げ後」のゆくえ

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テイラー教授は、米国経済の低迷は「長期停滞」が原因ではなく、景気循環よりも政策の成否に起因した循環が大きいとみる。景気変動は、実体経済の景気循環要因よりも政策の成否によって生じる変動の方が大きく影響していることを示し、効果が芳しくない政策が講じられた(あるいは有効な政策が講じられなかった)ことで低迷が起きたと主張する。これを踏まえ、米国経済に必要なのは、税制改革、社会保障給付改革、規制改革、自由貿易協定の推進、労働市場改革、金融市場改革などであって、緊縮財政政策をやめることではないと説いた。

インフラや教育への投資が不足

これに対し、反緊縮を唱えるのがスティグリッツ教授。米国の経済成長の低迷は、需要不足に起因することを主張する。需要不足の背景として、賃金の伸び悩みに着目する。ゼロ金利政策の下では、企業は安く資金調達できるから、平時の金利の時と比べて資本(機械類)をより多く労働をより少なく用いて生産する構造となっており、雇用拡大を伴わない景気回復が起きていると見る(だから金融緩和政策は低迷打開に機能しないとみる)。また、製造業からサービス業への労働移動も不十分にしか進んでいないとして、“structural transformation(構造転換)”が必要と説く。

このように、労働者が十分に所得を稼げず、消費が伸び悩む。他方、21世紀の新たな産業構造は、資本をあまり用いない生産構造であるがゆえに設備投資を多く必要とせず、設備投資需要も増えない。その上財政運営は緊縮的。これらが、需要不足を引き起こしていると主張した。

その解決策として、緊縮財政をやめ、社会インフラ、教育、地球温暖化防止、格差是正のために財政支出を投じることを提起した。社会インフラへの投資により、民間の投資不足と技術革新の支援を行い、教育支出により労働者の質を高め、製造業からサービス業への労働移動を進める。

このスティグリッツ教授の主張に対し、フェルドシュタイン教授は、教育やインフラへの投資は不十分だと認識を共有しながらも、失業率が5%と米国経済にしては十分に低い今日、財政刺激策は不要と反論した。

この議論を拝聴して、意見の相違は残ったままだったが、建設的で示唆深い議論にすがすがしさを感じた。パネリストは皆、大学院で教育を受けて経済学の博士号を持つ共通の学問的裏付けがあり、ミクロ経済学やマクロ経済学という演繹法的な基礎理論に基づく点で共通している。演繹法的な立論であるため、まったく同じ理論に基づいていても、現状認識や前提条件が異なれば、結論が異なりうるという議論の大原則がある。

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