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セイラーの行動経済学、異端の学問が大活躍 次のノーベル経済学賞は「フィールド実験」か

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  • 筒井 義郎 甲南大学 経済学部特任教授
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同じような発想の試みに「デフォルト」(default)の活用がある。デフォルトとは、利用者がとくに選択を指示しない時に実行される選択肢のことである。たとえばコンピュータにおける「初期設定」がそれにあたる。利用者は必要とあればそれを変更できるが、よほど不便でなければ初期設定のまま使うであろう。

「デフォルト」の応用先として有名なのが、確定拠出年金加入と臓器移植の同意書である。確定拠出年金は最近日本でもブームになっているが、アメリカでは401kと呼ばれ、古くから導入されていた。401kは加入者に有利な制度と考えられていたが、加入率はそう高くなかった。その後、401kに加入しないという意思を示さなければ加入することになるという制度(「加入」をデフォルトとする)に変えたところ加入率が跳ね上がった。臓器移植については、「移植する」をデフォルトとしてしたくない人はその意思表示を必要とする国と、逆に「移植しない」をデフォルトとしてしたい人はその意思表示をする国とでは、臓器提供希望者の割合が極端に異なることが知られている。

強制はしないが「望ましい選択」へ誘導する

「デフォルト」の利用を提案した背景にあるセイラーの考えを明確に定式化したのが「ナッジ」(nudge)である。経済学には「である」を明らかにする「実証経済学(positive economics)」と「であるべきだ」を明らかにする「規範経済学(normative economics)」があるが、「ナッジ」は行動経済学における「規範経済学」である。

行動経済学は人々が非合理であることを明らかにする。「ダイエットしたいけれどどうしても食べてしまう。禁煙したいけどできない」という人に対して、行動を規制(強制)すれば本人にとってもよいのではないかという考えが湧く。たとえば、振り込め詐欺が増えている昨今「ATMでの現金振り込み額を10万円以下とする」という規制はそのような考えに基づいていて、「家父長的規制」と呼ばれる。

ところが、経済学の伝統では人々は合理的であると考えているせいもあって、個人の意思を制限することには徹底的に反対である。行動経済学者も経済学者であり、個人の自由は侵すべきでないと考えている。そこで個人を規制すべきかどうか、行動経済学者のジレンマが始まるのだ。

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【次のノーベル賞候補は?】

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