リサーチする中で気づいたのが、源泉の温度と源泉の管理状況だった。「観光ホテルの源泉は、白猿の湯が62.3度、蛇の湯が54.5度、新太郎の湯が46.5度。いずれも源泉をそのまま湯船に引き込んでいます。沸かす必要も、循環させて温度を下げる設備も要らないので、光熱費などの経費を抑えて経営できるのではないかと踏みました」。
さらに3つの源泉やポンプなどの設備は林野庁と北上市が管理していて、利用料を支払う仕組みだった。NEXCO東日本でインドの現地法人立ち上げや事業開発に携わってきた木村さんの目には、事業として成り立つ形に映った。
オーナーの話では、東日本大震災やコロナ禍で経営が厳しい時期もあったが、最近は黒字に回復していたという。これも買収への背中を押した。「やり方を変えれば、自分たちの手でこの宿を再生させられる」。2人はそう確信し、事業承継に名乗りを上げることを決意した。
法人設立。1年半を経てプレオープン
2人は夏油温泉観光ホテルを事業承継するためにGETO Village株式会社を設立。温泉の一部が国定公園内にあるため、林野庁の国定公園内の使用許可も取得した。オーナーとの売買交渉を進め、7月には契約が成立。晴れてホテルは、2人が共同経営者を務めるGETO Villageの所有となった。木村さんは本業を続けたまま、複業として夏油に関わる道を選び、この温泉に惚れ込んだ村岡さんが女将として切り盛りするという役割分担が決まった。
2025年10月、本来の営業シーズンも終盤にさしかかったころ、プレオープンにこぎつけた。大がかりな改修をする余力はない。既存の施設をほぼそのまま使い、清掃と、水漏れ箇所などへの応急処置だけで臨んだ。それでも、「東の大関」と謳われた湯の力を感じてもらうには十分だった。
あくまで「プレオープン」と位置づけ、ネット上の予約サイトは使わず、本館と東館の最大15室を、素泊まりのみで開けた。地元紙の記事で知った昔からの常連客や、2人の知り合いがプレオープンを祝った。「『再開を待ちわびていた』と喜んでくれる昔からの常連さんもいて、やっぱりこのお湯はたくさんの人の心の拠りどころだったのだと実感しました」。村岡さんは、再開時の感慨をそう振り返る。
1カ月余りの短いテスト営業を終え、宿は11月、例年どおり雪に閉ざされた。そして、本当の試練がやってきた。
後編:『「無期限休業→再開直後に源泉ストップ」 重機も入れない崖の配管断絶から"再起"した宿が「食事を出さない」選択をしたワケ』


※ログイン後、コメント入力が可能です。