何かの拍子に、ふと、「ポッポーも、そろそろその猫ちゃん(根付け)とお別れして、前進したらどうだ。新しい伴侶を見つけた方がいいって、うちのも言ってたぞ」と言うと、周りの仲間たちも賛同しました。すぐに別の話題に移っていきましたが、しばらく黙っていた(ことにも誰も気づいていませんでしたが)加藤が、ふいにテーブルを拳で叩いたのです。
「お前らに、何がわかる」
驚いて、全員が沈黙しました。
「何が」
話のつながりを忘れていた私が言うと、加藤は唇を震わせながら私を睨みつけました。
「家族が健康で、ずっと人生盤石なお前に、俺の何がわかるんだよ」
まあ、まあ、と、仲間がなだめに入ります。しかし私も酔いにまかせて言い返しました。
「だから、こっちだって、お前が一人でいることが心配で言ってるんだろ。いつまでも亡くなった人に縋って、さみしく暮らしてたら、仁美さんだって悲しむぞ」
「違う! お前らは心配なんかしてない。高みの見物をしておもしろがってるだけだ」
「おもしろがってなんかないって」
「お前らのような人間と付き合う時間は、もうない。俺だって、いつ死ぬかわからないからな。一刻だって無駄にしたくない。だからもうこれっきりだ」
「何言ってるんだ、大人げないぞ」
「絶交、ということだ!」
ガタンと音を立てて加藤は立ち上がり、震える手で財布から1万円を出し、投げつけるように置いて、店から出て行きました。
「……この光景、既視感あるな」
仲間の一人が呟きました。
押し寄せてきた後悔の気持ち
酔いが醒め、冷静になると、後悔の気持ちが押し寄せてきました。亡くなったとはいえ、これも「夫婦のこと」。他人が口出しするべきではなかった、と思いました。帰宅して妻にこの出来事を話すと、こっぴどく叱られました。
「家の中で話したことをそのまま言うバカがどこにいるの。あんたたちっていつまでも学生気分で、本当にバカなんだから!」
バカと言ってくれる嫁さんも、加藤にはいないのか。そう思うと、妻からの罵倒も受け流せる気がしました。



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