しかしふとペダルを漕ぎながら、
(となると、今の家にいる私に顔がそっくりな男の子は何者なのか)
と疑問が湧いてきた。洋館の色白の愛らしい子は私の弟に間違いないのだが、家にいる顔の平たい子は誰なのか。私は首を傾げながら、両親が喧嘩をしているであろう、家に戻ってきた。父親は仕事をしながら、顔だけ横に向けて、
「おう」
と私にいった。
「自転車か?」
「うん」
プリンを食べながらテレビを観ていた子どもの顔
父親は誕生日とクリスマスプレゼントの合体策として、買ってやった自転車を、私が毎日乗っているのがうれしくてたまらなかったようだった。母親は縫い物の手を止めて、
「おかえり」
といった。
「今日はどこまで行ったの」
と聞いてきた。まさか本当の家を探しに行ったとはいえないので、
「石神井公園のほう」
というと、
「あんなところまで行ったの? 大丈夫? 気をつけなきゃだめよ」
とちょっと叱られた。それでも私は、心の中で、
(いいの、本当のお父さんとお母さんと弟が住む家が見つかったから)
とつぶやき黙っていた。テレビの前では私とそっくりな顔の子どもが、プリンを食べながらぼーっとテレビを観ていた。
(こいつは何者だ?)
どこをどう見ても私とそっくりだ。しかし私はこいつは噓の両親の子どもで、私は違うと信じていた。
それから少しの間は、家で嫌なことがあっても、
(私には本当の素晴らしい家がある)
と思うと、何とも感じなくなった。いつかこの長屋を出て、あの大きな洋館に行く日が来るだろう。それは半年後か、1年後かはわからないが、そうなれば素敵な生活が待っている。これは私だけの秘密にしようとしたが、どうしても黙っていられなくなって、学校からの帰り道、仲のいい女の子に、
「あのね、この間、私の本当の家を見つけたの」
と小声で告白した。その子は、
「ええっ」
と驚き、
「本当の家って何よ」
と顔を寄せてきた。



※ログイン後、コメント入力が可能です。