[Book Review 今週のラインナップ]
・『盗まれた誇り 喪失と恥と右派の躍進』
・『悲嘆の脳科学 最愛の人を失ったとき脳では何が起きているのか』
・『「蒲団」の時代 自然主義とは何だったのか』
評者・ジャーナリスト 会田弘継
「喪失」から「盗まれた」へ トランプが訴えた被害者意識
それでもなぜ、トランプは支持されるのか──。社会学者である著者は政治の根底に流れる感情、とくに「誇り」と「恥」を軸に、7年に及ぶ現地調査でトランプ米大統領の岩盤支持層の心理を探った。その記録である。本書が突きつける課題は日本社会にも無縁とはいえない。
2017年に始まった調査の対象となったのはケンタッキー州東部アパラチア地方の下院選挙区で、白人の比率が97%と全米で最も高い。全米で2番目に保守的で、2番目に貧しい選挙区とされる。ヴァンス副大統領が子供時代を過ごし、自伝『ヒルビリー・エレジー』で描いた地域だ。
この選挙区は、かつて炭鉱で栄えたが今はすっかり衰退したラストベルト(さびついた鉱工業地帯)だ。世論調査会社、米ギャラップなどによる「幸福度指数」では全米最下位。生活満足度、労働環境、心の健康、身体の健康、健康的行動、医療へのアクセスのすべてが最低とされた。
ただ、本書で強調されるのはそうした物的経済ではない。人々が気づかないようなかたちで物的経済と連動する「プライド経済」だ。物的欠乏は生活の貧しさをもたらすだけではない。その貧しさを恥と認識せざるをえなくなる。「誇り(プライド)」の問題を引き起こす、と著者はいう。
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