ここで1つ、重要な前提がある。心理学では、怒りという感情を「状態怒り」と「特性怒り」に分けて考える(※2)。
「状態怒り」とは、特定の状況に応じて、その場で一時的に生じる感情的・生理的な反応で、軽い苛立ちから激しい怒りまで強度が変動する。一方、「特性怒り」とは、他の人より頻繁に、強く、長く怒るという、個人のパーソナリティの傾向そのものを指す。
大谷選手について、アメリカのファンが語っていた「球界で最も優しい男」という評価は、まさに彼の特性についての評価だ。そして今回の表情は、明らかに状態怒り、つまりその場の状況だけに生じた一時的な反応である。
「いつも怒っている人」が怒っているのではなく、「ほとんど怒らない人」が、その瞬間だけ強い反応を見せた。この区別があるからこそ、見る側は「彼の本性が露呈した」という解釈ではなく、「よほどのことがあったのだろう」という解釈に向かいやすくなる。
その怒りは、相手を傷つけるためのものではなかった
怒りの研究には、もう1つ重要かつ古典的な分類がある。「敵意的攻撃性」と「道具的攻撃性」という分け方だ(※3)。
「敵意的攻撃性」とは、相手に苦痛を与えることそれ自体が目的となる、反応的で衝動的な攻撃を指す。一方、「道具的攻撃性」とは、何らかの目標を達成するための手段として行われる、主体的で計算された攻撃を指し、相手を傷つけること自体が目的ではない。
この分類は元来、身体的な攻撃行動を対象に整理されたものであり、表情や言葉だけのやりとりにそのまま当てはめるのは厳密には拡張的な解釈である。

