「西郷隆盛」や「高杉晋作」たち幕末志士は歴史上の人物のなかでも、特に名前を見る機会が多く、日本人にとって身近な存在だ。そんな時代を駆け抜けた志士たちが愛した芸能だと考えると、途端に身近な文化のように感じられる。
「幕末に日本中に広がった後、昭和40年ごろに国語学者・金田一春彦さんのアクセント研究が詩吟界にも影響を与えました。それまで節回し中心だった吟詠に日本語本来の言葉の高低や響きを大切にする考えが取り入れられ『詩の意味』をより正しく伝える方向に発展していったことで、日本中に詩吟ブームが起きました」
実際、当時は小学校の時点で詩吟を習っていたという。そのため、現在の90~100歳ほどのシニア世代の方々は、当たり前のように吟じられるそうだ。
だが、学校教育の現場から詩吟が姿を消すにつれ、そのブームは翳りを見せていく。かつては大衆文化として人気を博した詩吟だが、今では大半の人が人生で一度も触れたことがないほど、マイナーな伝統芸能になってしまった。
「詩吟に触れる機会を増やしたい」目黒区の高校でおこなう普及活動
「旦早流吟詠会では、少しでも多くの人が詩吟に触れる機会を増やしていきたいと考えています」
ブームの翳りにより、大衆に普及した文化という地位を失った詩吟。しかし、現状に甘んじることなく、少しずつその文化を広める活動をおこなっているという。
「詩吟の良いところは、年齢に関係なく楽しめることです。なんといっても、声さえあればできますから。高額なテキストや道具も必要ありません。こうした利点を活かし、我々の活動拠点でもある目黒区の八雲学園高等学校で詩吟に関する講演会をおこなっています」
ゆとり世代ど真ん中の筆者は、学校の授業で一度も詩吟に触れたことがない。だが、高校生の時点で詩吟に触れていれば、もう少し漢詩が好きになっていたかもしれない。若い時点で詩吟という文化に触れる体験は、きっとこれからの詩吟人口を増やすことにもつながるのだろうと想像できる。

