「京都東山」を吟じ終えて前を見ると、島田さんの笑顔が返ってきた。うれしい。たとえおべっかであっても、クラスメイトの前で音痴を蔑まれた経験のある筆者にとって救われるような言葉だった。
詩吟のテクニックのなかでも、鼻にかけて発声する「鼻濁音」が苦手だったので、何度か優しく教えてもらい、できるようになるまで根気よく付き合ってもらえた。あの日大きな声で歌っていた筆者のように、音を間違えても笑われることも蔑まれることもなかった。
できている部分は褒めてもらい、足りていない部分は個別で練習する。終始柔らかい雰囲気の中で教わり、レッスンが終わるころには不格好なりに吟じられるようになっていた。
「大声を出すのが楽しくて」60~80代の生徒さんに聞いた、三者三様の詩吟愛
詩吟教室の体験は約2時間。休憩時間に生徒の方々へどうして詩吟をはじめたのか、どんな点が魅力だったのかをインタビューさせてもらった。
当日お会いした生徒さんの多くは60〜80歳とシニアの方だった。定年を迎え、子が巣立った後の人生で詩吟を習いはじめた理由の多くは、“人”にあるという。
「私は二代宗家の有坂旦悠さんの後輩なんです。昔から詩吟がお上手で、その姿を見て憧れていました。やっと子育ても終わり、自分の時間ができたタイミングで思い切って憧れの先輩に詩吟を習いたいと思い立ち、この教室に参加したんです」
とにかく人が良いのだと語る手には力が入る。そんな話を聞いて、少し照れ臭そうに笑顔を浮かべる有坂さんの表情が印象的だった。
「伝統芸能」と聞くと、どうしてもハードルの高さを感じてしまう人の方が多いだろう。血筋や性別を選び、気軽に習えるものではないと思い込んでいる人も少なくないはずだ。だからこそ、“人の良さ”が習いはじめるきっかけになるのかと驚かされた。
「私はね、大きい声を出せるのが好きなんです」
そう話してくれたのは、子育てが終わりシニア世代に差しかかった女性だった。
「カラオケ以外で大きな声を出せる環境って少ないんですよね。でも、ここなら大きな声をお腹から出せるじゃないですか。それが楽しくてたまらないんです」

