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直木賞候補作『青天』:オードリー若林正恭だからこそ書けた、夢が叶わなかった「敗者の尊厳」

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『青天』の舞台となるのは四半世紀前の東京の高校アメフト部である。主人公は強豪校に敗れて引退した後、勉強にも非行にも振り切れず、宙ぶらりんな時間を過ごす。そんな彼は自分自身の不甲斐なさに向き合いながら、再びアメフトと向き合うことを選ぶ。

タイトルの「青天」とは、アメフトで仰向けに倒されることを指す言葉だ。つまりこれは、勝者ではなく倒された者の側から書かれた物語なのだ。この視点の選び方に若林の作家としての本質がよく表れている。

本作がここまで支持されている最大の理由は、若林がこれまで一貫して扱ってきた劣等感、自意識、居場所のなさといったテーマが、小説という形式の中で最も純度が高い状態で結晶化したからだ。

本文中の「人にぶつかっていないと、自分が生きているかどうかよくわからなくなる」という文章は、若林の生き様を凝縮したようなフレーズである。彼の魅力は、弱さを克服した人間として語ることではなく、弱さに向き合いながら、そんな自分を過剰に美化せず言葉にするところにある。

説教をせず、結論も急がない

現代の読者は、単純な成功物語には心を動かされなくなっている。努力すれば夢は叶う、負けても前を向けばいい、といった王道の物語は、今のトレンドの中心ではない。むしろ多くの人が知りたいのは、夢が叶わなかった後、勝てなかった後、思っていた自分になれなかった後に、それでもどうやって生きていけばよいのかということだ。

若林は、その問いに対して説教をしないし、結論を急がない。痛みを痛みのまま、情けなさを情けなさのまま置いておく。その上で、その感情がほんの少しだけ別の形に変わる瞬間を描く。それがこの作品の主題となっている。

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