この連載の愛読者であれば、競馬のケンタッキー・ダービーを想起するかもしれない。言わずと知れた「アメリカ版3歳クラシック3冠」の緒戦であり、同州のチャーチルダウンズ競馬場で行われ、「スポーツの中でもっとも偉大な2分間」と称される。
5月2日に行われた今年のレースでは、西村淳也騎手騎乗の日本馬ダノンバーボンが最後の直線で先頭に立ち、結果は5着に終わったとはいえ、つかの間の「夢」を見させてくれた。
一筋縄ではいかないケンタッキー州の土地柄
同州の名産物であるバーボンウイスキーも忘れてはならないだろう。「I.W.ハーパー」や「フォアローゼス」は同州を代表する銘柄である。名門ジム・ビーム社は今ではサントリーの傘下に入っているが、多くの日本企業が投資している州でもある。トヨタ自動車の工場ではカムリなどを生産し、自動車部品工場も多く同州で活動している。
ケンタッキー州は南部と中西部の境界に位置している。北はオハイオ、インディアナ、イリノイ州に、南はテネシー州に接している。歴史的には1792年にヴァージニア州から分離し、合衆国15番目の州に昇格した。南北戦争では南軍に参加せず中立を維持した。
アパラチア山系に位置し、独自の「アパラチア文化」を有する州でもある。ヴァンス副大統領が出世作『ヒルビリー・エレジー』で描いていたように、「反政府」「反権威」「反エリート」の骨っぽいお土地柄だ。1990年代までは民主党支持州であったが、今は典型的なレッドステーツで、「ティーパーティ」や「MAGA」の運動が深く浸透している。
この州の政治がまことに面白いのである。
現職の2人の上院議員はいずれも共和党で、一人はミッチ・マコーネル前上院院内総務。長年にわたってワシントンの議会政治を仕切ってきた重鎮だ。防衛予算や農業補助金、石炭産業支援など、地元に利益を運んでくる古いタイプの政治家である。
もう一人はリバタリアン(政府による介入を最小化すべきだと主張する自由至上主義者)として、独自路線を歩んできたランド・ポール上院議員だ。父親のロン・ポールから2代続く変わり者政治家で、まさに「小さな政府」を擁護し、対外介入に反対し、そして「監視国家にも反対」を掲げる。言わば「反体制保守」を貫く信念の人である。
ケンタッキー州は、この2人を同時にワシントンに送り込んできた、マコーネル氏とポール氏は、いずれも「反リベラル」では共通するが、前者は州の利益誘導を担当し、後者は地元の「反体制の声」を代弁してきた。そのうえ、州知事は民主党穏健派のアンディ・ベシア氏なのである。一筋縄ではいかないお土地柄であることが、ご納得いただけるだろう。
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【引退するマコーネル氏の後釜は、ほぼ決まり】
