しかし、その「あとで」は積み上がっていく……。毎週9時間分の講義が溜まり、毎月段ボールで届く教材が未開封のまま部屋の隅に積まれていくことを彼女は「負債」と呼んだ。「負債」を見ればつらい。つらいから見たくない。見ないでいると、さらに負債が増える。増えたものを見て、また苦しくなる。完全な悪循環に陥った。
「いま思うと、私はずっと“努力が見える世界・周りも同じようにやっている世界”に支えられていたんですよね。その両方がなくなった場所で、初めて完全に一人で自分を管理しなければいけなくなった。でも、それができなかった。東大に入ってから急に能力が落ちたわけではなくて、たぶん、ゲームのルールが変わったんだと思います」
大学2年生の5月、司法試験の予備試験で不合格に。「試験」と名のつくもので落ちた初めての経験だった。
「もちろん、予備試験に大学2年で受かる人なんてほとんどいないし、自分でも勉強不足だとはわかっていました。だから、冷静に考えれば予想外の結果ではなかったはずなんです。でも、ものすごくショックでした」
好きで得意だったはずの勉強が、ここまで自分を追い詰めるものになるとは。初めて経験する苦しみに、彼女の心が少しずつ蝕まれていく。
「今ならすごく傲慢な感覚だったとわかるんですけど、当時はどこかで『自分の人生は何をやってもうまくいく』と無条件に思い込んでいたところがありました。挫折らしい挫折がなかったので、うまくいかないことが起きたときに、それを人生の一部として受け止めることができなかったんです。『あ、ここで失敗したならもう終わりだな』と感じてしまいました」
うつ病の診断を受けた新倉さんを救ったもの
さらに悪いことは重なる。時期を同じくして、父が末期がんだと告げられた。
「いろいろなことが一気に来て、そこで完全に心が折れた感じでした。そこから2年以上、ほとんど引きこもっていました。文字が頭に入らないし、涙は止まらないし、起き上がれない。ただ横になって時間だけが過ぎていく。今振り返るとかなり深刻な状態だったと思います」
大学4年の夏、卒業単位が足りているのか自分で判断できなくなり、学生相談室に行ったことがきっかけで、スクールカウンセラー、メンタルクリニックとつながり、うつ病という診断を受けた。
「診断されたときも、『ああ、そうだったんだ』と思う一方で、そんな状態になっていることに自分で気づいていなかったことが少し怖かったです」
そんな新倉さんを救ったのは意外なものだった。
次ページが続きます:
【現実の嫌なことを忘れられた】
