東洋経済オンラインとは
政治・経済・投資

小学校教育へのAI導入は問題だらけ、早期のAI教育によって恩恵を受けるのは生徒ではなくテクノロジー企業だ

5分で読める
(写真:ブルームバーグ)
2/2 PAGES

また、こうした施策は成功の定義もゆがめる。AIが短期的にテストの成績を押し上げても、それが本当の学習を意味するとは限らない。ある研究では、「ChatGPT」を使った学習者の記憶定着は従来の勉強法に比べ大幅に低く、45日後の抜き打ちテストでも成績が明確に見劣りした。AIは初期の学習を容易にする一方、深い理解に不可欠な努力のプロセスを損ねる恐れがあると指摘されている。

言い換えれば、手間や苦労、反復、試行錯誤が人の学びを支える。そのプロセスを過度に省けば、人の思考の在り方が、私たちがまだ十分に理解していない形で変わってしまう可能性がある。長期的な研究が必要であり、この不確実性こそが、なお成長段階にある子どもへの導入に慎重であるべき理由となる。試験導入に投じる資金は、人間の教師の採用に振り向ける方が有益かもしれない。

機械では身につかず

とはいえ、教育におけるAIの役割を全否定するものではない。シンガポールでは、高齢受刑者にAIリテラシーを教える計画も注目されている。対象は成人であり、就労や社会復帰に資する実務的スキルの習得が目的となっている点が重要だ。キャリアに直結する技術教育と、小学校への無理な導入との違いが浮き彫りとなっている。米国の小規模研究でも、受刑者へのデジタル教育拡充は再犯率の低下と関連していた。

AI教育の早期導入を後押ししたくなる不安は理解できる。AIを知らない子どもが将来の労働市場で取り残されるかもしれないという心配だ。しかし現実には、自動化が進むほど、批判的思考やコミュニケーション能力、感情的知性といったスキルの価値は高まる。これらは機械では身につけられない。

政策当局者らは、前回の技術革新がもたらした弊害を検証する前に、次の教育トレンドに飛びつこうとしている。スクリーンやエドテックが普及してから数年、Z世代は前の世代よりも認知能力が低い初の世代になりつつあるとのデータも増えている。生徒をデジタルデバイスにさらに強く縛り付けるAIで、この方向性が改善されるとは考えにくい。

AIは生活を便利にするためのものだ。一方、教育の本質とは、まさにその利便性が切り捨てようとする自力で答えを導き出すための試行錯誤を生徒に経験させることにある。AI訓練は刑務所にはふさわしいかもしれないが、小学校には適していない。

(キャサリン・トーベック氏はアジアのテクノロジー分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。CNNとABCニュースの記者としてもテクノロジーを担当しました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

著者:Catherine Thorbecke

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

政治・経済・投資

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象