タクシー運転手をしていた茂之さんは当然ながら車の運転が得意で、平日は朝も夜も最寄り駅まで茜さんを送り迎えしてくれる。茜さんが残業から帰ってくると、駅周辺のパチンコ店に入るのが定番コースだ。
「最初は彼が行きたがったのですが、今は私のほうがパチンコにハマってしまいました。ほぼ毎晩一緒に行っています。閉店時間まで1時間ぐらいなので、私が使うのは多くても2千円ぐらいです。負けたら彼が補填してくれます。彼は元パチプロなのですごく上手で、夫婦トータルでは勝っているはずです。家にいてもパチプロのYouTubeで勉強していますし、彼もいろいろ教えてくれます。すごく楽しい毎日です」
パチンコからの帰り道は吉野家か松屋に寄って牛丼を食べ、家に帰って一緒に寝るのが平日の過ごし方。週末は自然に浸りにドライブしたりもするが、途中で地域のパチンコ店に入るのがお決まりのパターンだ。
自堕落な若者の同棲生活を聞いているような錯覚に陥るが、2人が幸せなのだからそれでいい。それぞれの子どもは親の世話が必要な年齢ではない。
「彼と私の間には子どもがいないので、ネコを飼ってかわいがっています。彼の家には庭があるので、駐車スペース1台分ぐらいの小さな畑を私がやっているんです。夏はピーマンやナス、トマトがどっさりできますよ」
初婚は条件や世間体を優先して失敗
話が合う人と一緒に暮らしたいという気持ちは若い頃と変わっていない。ただし、最初の結婚では、「大学卒」「留学経験」「正社員」などの条件と世間体を優先して相手を選び、失敗した。茜さんは始終イライラして夫婦の会話はなかった。
2回目の結婚相手とは、タクシーの運転手と乗客として、お互いに素性の知れない者同士として出会った。細すぎる赤い糸である。40代半ばになっていた茜さんはその糸をやや強引に太くし、今の暮らしを築いた。
パチンコも牛丼屋も猫も畑も、世間ではなく自分たちが愛しているのだ。欲求不満が溜まって40歳のときに「はじけた」経験が、茜さんを守りつつも縛り付けていた固定観念を取り払ったのかもしれない。今の茜さんはよくしゃべる茂之さんと一緒に明るくはじけている。
