あの大型イマーシブ施設閉館の裏に「稼働率100%でも赤字」の疑惑、マーケティングのプロが陥った"ある欲求"の怖さ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ホストクラブ自体が悪いわけではない。接客業として見れば、強いリピートを生む合理的な仕組みであり、そこに救われる人がいるのも事実だ。

しかし、その価値の源泉を直視せず、「演劇」「表現」「イマーシブ体験」というラベルを重ねた瞬間、事業は別の顔を持ち始める。本来であれば不要だったはずの脚本、演出、美術、長期の稽古期間、そして大規模な施設。それらを背負い込むことで、事業は重くなり、結果として「高稼働であっても収支が成立しにくい構造」へと変質していく。

経営者の「クリエイターでありたい」という欲求

すべてを狂わせたのは、経営者の内側にある〈クリエイターでありたいという欲求〉ではなかっただろうか。これは「運営者でありたいのか、それともクリエイターでありたいのか」という、自分自身の在り方をめぐる問題だ。

ホストクラブ運営であれば、経済合理性は成立する。しかし、「自分はクリエイターである」という内的欲求は満たされない。その違和感を埋めるために、事業に化粧を施し、その正体を少しだけ言い換えてしまう。

北極星 僕たちはどう働くか
『北極星 僕たちはどう働くか』(幻冬舎)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

外に対しても、そして自分自身に対しても、無意識の嘘を重ねてしまう。こうした思考の歪みは、「動機づけられた推論」と呼ばれる。個人が望む結論に合うように、情報を解釈し、評価し、整理してしまう認知の傾向のことだ。

その結果、本来は切り分けて扱うべき「創作欲」と「事業設計」が曖昧なまま結びつき、事業は静かに持続性を失っていく。

この事例が示しているのは、特定の個人の失敗ではない。とりわけエンターテインメント業界においては、「クリエイターでありたい」という内的欲求を抱えた経営者が、そのエネルギーを十分に整理・認識できないまま、意思決定に持ち込んでしまうケースは少なくない。

「心」というものが、思っている以上に厄介な存在だということだ。そして一度、裁量権を手にした途端、その厄介さは、経営判断の中に静かに入り込んでくる。

西野 亮廣 芸人・絵本作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

にしの あきひろ / Akihiro Nishino

 1980年兵庫県生まれ。黒いペン1本で描いた絵本『Dr. インクの星空キネマ』を皮切りに、モノクロの絵本『ジップ&キャンディロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』、カラーの絵本『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック〜約束の時計台〜』『みにくいマルコ』、小説『グッド・コマーシャル』、ビジネス書『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』『ゴミ人間』『夢と金』など、幅広いジャンルで続々と刊行、すべてがベストセラーとなっている。 原作・脚本・製作総指揮を務めた『映画えんとつ町のプペル』(2020)では、映画デビュー作、かつコロナ禍にもかかわらず動員196万人、興行収入27億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たし、世界中の映画賞も数々受賞。原作・脚本・製作総指揮を務めたコマ撮り短編映画『ボトルジョージ』(2024)では米アカデミー賞のショートリスト入りを果たす他、世界中の映画賞を数々受賞。 また、ミュージカル『えんとつ町のプペル』でも、製作総指揮・原作・脚本を務めると、開幕前に3万席のチケットを完売し、総制作費4億 5000 万円についても初週で回収を完了。圧倒的世界観で国内外の評判を集めた。ニューヨーク・ブロードウェイでは、ミュージカル『CHIMNEY TOWN』の制作も進行している一方で、舞台『OTHELLO(オセロ)』(2025、主演:デンゼル・ワシントン、ジェイク・ギレンホール)の共同プロデューサーを務め、ブロードウェイ週間興行成績で3週連続1位に輝く。 そして、映画としての第2弾、『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』(2026 年春公開)では、事業投資型クラウドファンディングによって、製作費4億8000万円を、34時間で集めている。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事