「また失敗か」「資金が尽きる前にやめたほうが…」の声も…日本初の民間ロケット「カイロス」が、"3連続失敗"も諦めないワケ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

外から見えるスペースワンの姿勢と顧客の受け止めが異なる可能性はある。カイロスロケットには、防衛装備庁の実証衛星と経済産業省が進める宇宙太陽光発電の実証衛星が4号機以降に搭載される予定だ。

これらが本当にクラスD的なリスク許容を持っているのかは外部からは判断できない。防衛関連は通常はリスクを回避するが、「実証衛星」ならばある程度のリスク許容はありうる。

しかし、スペースワンはこうした顧客のリスク許容度を公に説明していない。関係者間で合意があったとしても、将来の顧客候補に対して「信頼できるパートナー」と映るかは別問題だ。

「3回の失敗」が問題なのではない

前述のロケットラボは、不定期に打ち上げに失敗して衛星を喪失するという経験がありながらも、エレクトロンを日本企業やJAXAの選択肢にもなるロケットに育てた。

ロケットラボもVCLS企業の一角であり、リスク許容と説明責任というNASAの育成方針から、失敗後の透明性について学んできたことが信頼回復に役立ってきている。

日本にはVCLSのような公的な育成制度がない。文部科学省による「SBIRフェーズ3 民間ロケットの開発・実証」支援プログラムはあるが、こちらはどちらかといえば開発資金を提供し、その使途や進捗を審査するという「資金支援」の性格が強い。

一方、VCLSでは企業の設計審査にNASAの担当者が参加し、技術的な懸念があれば助言するものの、最終的な判断は企業に委ねられる。さらにNASA自身が顧客となり、研究衛星の打ち上げ機会を提供することで新しいロケットに実績を与える仕組みでもある。

つまり、SBIRが主に開発段階を支える制度であるのに対し、VCLSはリスク許容と説明責任の枠組みを示しながら、ロケット企業が市場で信頼を獲得していく過程までを支える「市場育成」の側面を持っている。

そのため、スペースワンは独自にリスクコミュニケーションの方針を確立する必要があった。しかし現状では、その説明が十分とは言えない。

スペースワンが直面しているのは、小型ロケットを開発していたら誰もがぶつかる技術的なハードルだ。つまり、3回の失敗だけで事業の危機と断じる必要はない。

問題は、リスクをどう説明するかだ。VCLSのような公的育成制度がない日本では、企業自身が「リスク許容とは何か」「失敗から何を学んだか」を明確に示す責任がある。顧客との間で合意があったとしても、将来の顧客候補は企業の姿勢を見ている。「失敗の言語化」ができなければ、市場の信頼は得られない。

技術的なハードルは乗り越えられる。スペースワンに必要なのは、リスクコミュニケーション能力の向上だ。それが、日本の小型ロケット市場を育てることにもつながる。

秋山 文野 サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

あきやま あやの / Ayano akiyama

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事