イーロン・マスクの130日(下)トランプはMAGAを選び、テクノ・リバタリアンたちを捨てた
保守的なシリコンバレーのハイテク富豪たちは、“テクノ・リバタリアン”と呼ばれ、規制緩和と自由競争を主張している。代表的な人物は、PayPalの共同設立者であるピーター・ティールだ。ティールはバンス副大統領のメンターであり、彼が上院議員に立候補するときに資金援助をしている。
テクノ・リバタリアンたちは、シリコンバレーの価値観に基づいて機能不全に陥った連邦政府の組織を改革することを主張している。連邦政府の役割を治安、司法、国防に限定した「ミニマル国家」を目指す。そこでは、巨大な官僚機構は解体され、ハイテク企業のCEO型の指導体制が構築される。こうした考えの背後には民主主義に対する懐疑がある。多数派による支配ではなく、少数のエリートによる支配をよしとしている。彼らは、その改革の夢をトランプ大統領に託した。
実際、相当数のハイテク企業経営者数がトランプ政権に参画している。PayPalの元最高執行責任者デビッド・サックス氏(AI担当責任者)、ベンチャー・キャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツの役員スコット・クポー氏(人事管理局局長)、マイクロソフトの共同経営者スリナム・クリスナン氏(AI関係の上席政策顧問)、PayPalの共同設立者ケン・ハウアリー氏(デンマーク大使)、ウーバーの役員のエミル・マイケル氏(国防次官)などなど。彼らは連邦政府改革を目指してトランプ政権に加わった。
政府効率化省は死に体に
改革を託されたトランプ大統領に明確なビジョンがあるわけではなかった。政権が発足する前、技能者に対する労働ビザ(H-1B)発給を巡ってMAGAグループとシリコンバレー・グループが対立した。優秀な海外の人材を求めるシリコンバレーの経営者は労働ビザ発給を増やすことを主張した。これに対してMAGAグループは国内の労働者を守るために発給規制を求めた。この時、激しく対立したのは、マスク氏とMAGAの指導者で、第1期トランプ政権の大統領首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏である。最終的にトランプ大統領はシリコンバレーの経営者を支持している。
だが、DOGEを巡る争いでは、トランプ大統領はMAGAグループの主張を受け入れ、DOGEの役割を行政改革の実行ではなく、各省へのアドバイスと狭めた。これでマスク氏が政権を去るとなると、もはやDOGEに存在意義はなくなったと言っていい。
それぞれのグループが描くアメリカの将来がまったく異なるものである以上、2つのグループの対立は必然だった。トランプ大統領の政治的本能は、大衆運動であるMAGAを選び、エリート主義の富豪を切り捨てたのである。トランプ大統領のMAGA寄りの姿勢はさらに強まるだろう。政府に残ったテクノ・リバタリアンたちはトランプ大統領の怒りを買わないよう息を潜めることになる。マスク氏の離反が、来年の中間選挙を含め、政治的不確実性を高めるのは間違いない。
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