イーロン・マスクの130日(下)トランプはMAGAを選び、テクノ・リバタリアンたちを捨てた

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やり取りは泥仕合の様相を呈してきた。マスク氏は富豪のジェフリー・エプスタインが自宅でセレブを招きセックス・パーティを開いていたスキャンダルに触れ、「エプスタイン・ファイル」と呼ばれるゲストのリストにトランプ大統領の名前があると暴露し、さらにトランプ大統領は弾劾されるべきであると挑発的な発言を行った。また「トランプ関税」はリセッションを招くと主張し、「自分の資金的な援助がなければ、トランプは大統領になれなかっただろう」とも書いている。さらには第3の政党を結成するという考えまで示唆した。

対するトランプ大統領は「連邦政府がマスク氏の企業と締結している契約を破棄する」と脅しを掛けた。さらに、マスク氏の友人であるジャレッド・アイザックマン氏をNASAの長官候補から除外したこともマスク氏を怒らせた。『New York Times』は「マスク氏はこの人事に屈辱を感じ、両者の決別を加速させた」と書いている(2025年6月6日、「Buildup to a Meltdown: How the Trump-Musk Alliance Collapsed」)。マスク氏の会社スペースXはNASAと密接なビジネス関係を持っており、アイザックマン氏がNASA長官に就任する可能性が絶たれたことをマスク氏が報復と受け取ったとしても不思議ではない。

マスク氏の民主党候補支持や第3党設立に関する発言に対して、トランプ大統領は6月7日にSNSで「(中間選挙で)民主党の候補者に政治資金を提供するなら、イーロンは深刻な事態を招くだろう」と、その動きを牽制している。同日のNBCのインタビューでトランプ大統領は「マスク氏と話す計画はない。このテック長者は大統領に対して“無礼”である」と語り、記者から「関係を修復する気持ちはあるか」と聞かれ、「ない」と明確に答えている。

6月11日にマスク氏が『X』で一連の投稿について「行きすぎだった、後悔している」と述べ、トランプ大統領がそれを評価したと伝えられるが、和解したとしても、今までのような関係は望めないだろう。

両社の確執を生む根本的な問題

両者の発言を1つずつ取り上げて評論しても、あまり意味はない。問わなければならないのは、個人的な感情の対立ではなく、そもそも両者の間に“共通した世界観”が存在したのかどうかである。

トランプ大統領の支持層は2つあった。ひとつは、MAGAと呼ばれる白人労働者やエバンジェリカルと呼ばれる保守的なキリスト教徒のグループで巨大な集票組織だ。もうひとつは、ハイテク産業で成功を収めたシリコンバレーの富豪たちで、彼らはトランプ大統領に巨額の政治献金を行い、選挙を支援した。このまったく異質な2つの支持層のおかげでトランプ大統領は再選を果たした。

MAGAは、キリスト教的価値観に基づく社会変革を求め、白人労働者を保護し、製造業を復活させるアメリカ一国主義を支持している。シリコンバレーの富豪たちは、ワシントンの旧態依然とした官僚組織を変革し、IT技術を駆使した効率的で小さな政府を構築する一方で、イノベーションを促進する自由な市場競争を実現することを夢見ている。両者の間には共通点が少なく、それぞれ違ったアメリカの姿を描いている。

結論から言えば、トランプ大統領はMAGAに象徴されるポピュリズムの立場を明確にし、ハイテク富豪を切り捨てたのである。

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