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DIC「美術館」は生き残るのか、すべて換金して株主が山分けか?株主総会を前にファンドが「美術館の生みの親」である創業家との関係を問題視

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縮小
DIC川村記念美術館の建物
美術館の建物は2つの塔がアクセントで屋外にも美術品が点在する(記者撮影)

平日午前にもかかわらず、それに専用バスか車でなければ行き着けない田園地帯にあるにもかかわらず、3月中旬の館内はごったがえしていた。

千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館。保有、運営する化学メーカーDICは東京・六本木へ縮小移転すると決めた。今の建物での営業が3月31日を最後に終わるのを前に、"駆け込み需要”の様相を呈している。

DICは2023年12月期決算で、独BASFから買収した欧州顔料事業の赤字転落、そののれん減損の計上により398億円の最終赤字に陥った。経営改善の一環として、昨年8月に美術館の縮小移転あるいは運営中止の方針と25年1月下旬からの休館を公表すると、来館者が前年同期比4倍に急増。休館入りは延期された。

ボーナスタイムのような2〜3月の間、館内は180点の作品が"ファイナル展示”されている。来館者数はさらに伸びた。

自然、建物ともあいまった鑑賞体験

美術館は木々に囲まれ、池のほとりに立つ。対岸の建物はDICの総合研究所だ。里山を切り開いた30万平方メートルの土地に、研究所や運動場、広場、庭園、そして美術館が点在する。

美術館には、趣きの異なる11の展示室がある。床の素材から光の入り方まで作品に合わせて設計された空間だ。

たとえば、モネの「睡蓮」やルノワールの「水浴する女」といった印象派の絵は、そうした作品を飾る場であった邸宅のイメージで、アーチ型の天井にカーペット。シュルレアリスムの絵やオブジェが展示される部屋は、壁から天井までグレーで薄暗い。

ピカソにマティス、シャガール……美術館は有名どころの名で紹介されがちで、確かに20世紀の美術史をたどれるコレクションではあるが、その核は戦後アメリカ美術にある。第2次世界大戦の戦禍を逃れた画家たちがアメリカに集まり、抽象絵画が花開いた。

ジャクソン・ポロックをはじめとするラインナップの目玉といえるのが、約20点がそろうフランク・ステラ。広々とした空間の四方に大ぶりな作品がぐるりと並び、作風の変化を一望できる。初期は黒い線だけで構成された絵がカラフルになり、線が多様になり、立体的になり、そしてオブジェと化す。

「なんで残す方向にいかないんだろうね」。来館者のつぶやきが聞こえてきた。

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