前大統領の「電撃逮捕」で大荒れ必至のフィリピン 麻薬撲滅戦争の罪、マルコス大統領の真意は

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2025年5月には上院議員の半数と下院の全議席、地方自治体の首長と議員を一斉に選ぶ中間選挙が控えている。国会でマルコス派とドゥテルテ派がどれだけの議席を取るかで勢力図が塗り替わる。

とくに定数24のうち12人を選ぶ上院議員選は重要だ。この中から次期大統領選の有力候補が出るだけではなく、今回は24人全員がサラ氏の弾劾裁判の裁判官になるからだ。

選挙後に開かれる弾劾裁判で上院議員のうち3分の2が賛成票を投じればサラ氏の罷免と公職からの永久追放が決まる。

一方、サラ氏は次期大統領選への出馬の意欲を示しており、弾劾を切り抜ければ最有力候補となる。今回の逮捕劇が中間選挙、ひいては弾劾裁判にどのような影響が与えるか。

ドゥテルテ氏はかつて、国軍に対して蜂起を呼び掛けるような発言をした。だが忠誠を誓って国軍の一部がクーデターを起こすような展開は今のところ考えにくい。

ドゥテルテ「殉教者」の系譜に連なるか

国家警察が2024年8月、ドゥテルテ氏を支持する新宗教指導者を人身売買などの容疑で逮捕しようとした際は2000人の警察官を動員してなお信者の抵抗にてこずったが、今回はドゥテルテ氏の身柄がすでに確保されていることから、ただちに大きな混乱が起こるとも思えない。

それでも「悲劇のヒーロー」となったドゥテルテ氏の存在が支持者らの活動をより活発化させ、中間選挙でドゥテルテ派への「判官びいき」を引き起こす可能性はある。

ドゥテルテ氏は3月26日で80歳を迎え、多くの病気を抱えている。拘束中に「万が一」があれば、殉教者としてあがめられ、その後の政局に大きな影響を与えることになるだろう。

1983年のニノイ・アキノ元上院議員暗殺事件は3年後のシニアの政権の崩壊につながり、2010年のコラソン・アキノ元大統領の死は翌年の大統領選で息子のノイノイ氏を当選させる原動力となった。

マルコス陣営としては対立するドゥテルテ陣営の本尊に切り込み、3年後の次期大統領選でサラ氏の当選を阻止することを狙った逮捕劇だが、吉と出るか凶と出るかはまだわからない。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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