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元監視委事務局長が語る「インサイダー」「貸金庫」 いま起きている金融不祥事には「共通点がある」

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貸金庫からの窃取事案が相次いでいる問題について、金融庁出身の佐々木氏は「貸金庫ビジネスに関するリスクの認識が、銀行としても、当局としても不十分だった」と指摘する(撮影:今井康一)
金融当局や金融機関を舞台に、社会を揺るがす不祥事が連発して起きている。なぜこれほどまでに大きな不正が相次ぐのか。インサイダー取引を取り締まる証券取引等監視委員会で事務局長を務め、企業不祥事や内部監査にも精通する元金融庁総合政策局長の佐々木清隆氏に話を聞くと、金融業界で不正が頻発する理由が見えてきた。

――金融当局や大手銀行、証券会社などで耳目を集める不祥事が相次いでいます。金融業界で大きな不正が頻発する背景をどうみていますか。

まず2024年度に起きた事実を整理すると、金融庁と東京証券取引所でインサイダー事件が起き、三井住友信託銀行でもインサイダー取引の疑いが報道されている。三菱UFJ銀行とみずほ銀行では元行員が貸金庫から金品を窃取していたことが発覚し、三菱UFJ銀行では銀証ファイアウォール規制違反もあった。野村証券では強盗殺人未遂と住宅放火、さらには詐欺事件が立て続けに起こり、損保業界でも大規模な情報漏洩問題が起きている。

それぞれ会社も違うし、抵触している法令もバラバラだが、すべてに共通していることがある。それは職務で把握した情報を、本来の目的以外に悪用している点だ。

崩れ出した「最後の砦」

不正は「3つの要素」がそろったときに起きると言われる。1つが動機、2つ目は機会、3つ目が正当化だ。一連の金融不祥事は、いずれも「動機」が私利私欲の金儲け。職務で非公開情報や顧客情報などを知り得る立場にあるので「機会」もある。

動機と機会がそろっても、従来は3つ目の「正当化」で歯止めがかかった。これをやったら絶対にばれる、一生を棒に振ってしまう、家族に顔見せできないといった意識が働き、不正を正当化するに至らなかった。

だが、これだけ大きな不正が連発していることを考えると、絶対にばれない、これくらいいいじゃないか、俺だけ株取引ができないのはおかしい、といった身勝手な正当化が勝ってしまっているように思える。

企業のリスクマネジメントは、「3線」と呼ばれる3つの防衛ラインで構成される。1線が営業・業務部門、2線がリスク管理部門、3線が内部監査部門だが、いずれの不祥事も営業や業務部門で起きており、どれも圧倒的に1線の問題だ。非常にレベルが低い犯罪とはいえ、モラルの低下や人材の劣化を指摘できるのではないか。

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