そして、勝負の3浪目の受験には東京藝大1本で挑んだ家原さん。この年の1次試験に向けて石膏デッサン、構成デッサンの両方を準備し、最終的に構成デッサンを選びました。その結果、1次試験は突破しますが、2次試験はアクシデントに見舞われ、まったく自信がなかったそうです。
「実は立体構成の試験本番中、終了の1分前に作っていた手の甲に亀裂が入ってしまったんです。表面を取り繕っても、構造がそこで分断されているからどうにもできず、終わった時点で顔面蒼白でした。
『ああ、今年もダメだ』と、親に泣きながら電話しましたね。合格発表の日には、100%落ちていると思いましたし、前年度に落ちたことがトラウマになって、携帯を開けませんでした。40分くらい画面を開こうと思っても開けなかったのですが、そうしてるうちに母から『受かってるよ』と電話がかかってきて、喜びの叫びをあげるでもなく、ただ静かに泣きました」
こうして、壮絶な3浪の生活を終えて家原さんは、ずっと休学していた静岡大を中退し、東京藝術大学美術学部デザイン科に進学することができました。
浪人を経て自分主体で生きられるように
現在、家原さんは東京藝大の4年生。卒業まで秒読みとなった彼に浪人してよかったことを聞くと、「自分の人生が自分ごとになった感覚を得られた」、頑張れた理由については、「美術への楽しさを見いだせたから」と答えてくれました。
「自分は今まで周囲に合わせて生きてきましたが、静岡大に入って初めて、藝大に行きたいという思いを見つけて、誰に強制されるのでもなく、自分で努力をして、自分主体で生きられるようになったと思います。
最初のころはもう逃げ場がないし、家族に顔向けできないという思いで浪人をしていましたが、徐々に創ることや美術の楽しさを見いだせていったので、どんどん楽しいステージに進んで行った感覚があります」
「浪人を経て、もう一度生まれ直した感覚を得られた」と語る家原さん。昨年にはその壮絶な浪人の日々と、そこで得られたことを著書『どうしても僕は東京藝大に入りたかった』として上梓しました。
そして、つい先日、1月28日から5日間開催される藝大の卒業・修了作品展に展示する卒業制作を完成させました。
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