睡眠不足解消、日中の疲労マネジメントが鍵に? アリナミン製薬と柳沢教授、睡眠共同研究始動
疲労と睡眠の関係性は長年解き明かしたいテーマだった
――2024年から両社による「疲れと睡眠の関係、および抗疲労成分の効果」に関する共同研究が始まりました。経緯を教えてください。
森澤 アリナミン製薬は2021年に武田薬品工業株式会社から独立しました。その後、当社の存在意義は何かと経営陣で議論をして、「明日の元気を変えていく」というコーポレートメッセージを定めました。
このコーポレートメッセージには、当社の製品をお届けすることによって、日本そして世界の生活者に、今日の元気よりも明日、さらに元気になっていただきたいという思いを込めています。
その考えの下、当社はOTC医薬品メーカーとしてアリナミンブランドをはじめとしたさまざまな製品を生活者の方にお届けしています。活動を続ける中でよく耳にしたのが、疲れと睡眠に関する声です。
「疲れると眠くなる」という声がある一方で、「疲れすぎると眠れない」という声も多くありました。しかし、その理由は私たちもわかりませんでした。
疲労と睡眠の関係性は、解き明かしたいテーマの1つでした。ただ、睡眠研究の領域に足を踏み入れようとする際、睡眠計測は体に数多くの電極を装着する必要があるなど複雑で、睡眠研究の経験がない私たちには困難でした。
足踏みしていたところに届いたのが、柳沢先生のS’UIMIN様が手軽に睡眠を測定できるデバイスを開発したニュースです。早速試したところ、私たちだけでは難しかったデータを取得できることが判明。そこで柳沢先生にお願いをして、今回の共同研究が実現しました。
柳沢 睡眠の研究者は、以前から疲労と睡眠の関係に注目していました。疲労や睡眠はわれわれが毎日体験する現象でありながら、その関係やメカニズムについてはよくわかっていませんでした。その状況がようやく変わりつつあります。
疲労は筋肉や心肺系といった末梢に現れますが、最終的にそれを感じるのは脳です。一方、睡眠も脳の現象であり、両方とも脳につながっています。この10年ほどで神経科学の手法が発展して、ようやく疲労を神経科学の対象として扱えるようになってきました。
研究者から見ると、とてもエキサイティングな状況になった。このタイミングで声をかけてもらえたのは、睡眠の研究者としても願ったりかなったりでした。
実際、研究対象となるテーマは数多くあります。例えば、抗疲労成分として知られているフルスルチアミン。これはビタミンB1誘導体です。ビタミンB1は細胞のエネルギーをつくる入口のところで重要な役割を果たしますが、実は脳の神経細胞は代謝率が高くて燃費が悪く、多くのエネルギーを必要とします。
疲れすぎると眠れなくなるのは、脳の代謝系がヘタってしまうからである可能性があります。フルスルチアミンがエネルギー産生を通して脳にどのように作用し、睡眠にどのような影響を与えるのか。そこにアリナミン製薬とともに切り込めるのは楽しみです。
疲労と睡眠のマネジメントによる相乗効果を期待
――疲労と睡眠の関係が明らかになれば、疲労をセルフケアする重要性が高まるかもしれません。
森澤 脳との関連で疲労と睡眠の研究が進めば、睡眠の質が高まることで体の疲労状態が改善される一方で、体の疲労状態を適切にセルフマネジメントすることで睡眠の質が高まっていくという相乗効果が見つかる可能性があります。
そのサイクルを回すきっかけになりうるのが、自分の疲労状態を気にかけて、蓄積疲労・慢性疲労に陥る前に疲労状態を程よくコントロールする「疲労マネジメント」です。
疲労をマネジメントする方法はいろいろ考えられます。休息はもちろん、今回の研究テーマである睡眠も必要でしょう。またマッサージやスーパー銭湯を利用したり、ストレスのない生活をして気持ちの疲労をためないことも重要です。
また、抗疲労成分フルスルチアミンが配合された製品などを適切に使っていただくのもいい。当社はアリナミンを社名にしている会社として、疲労マネジメントの普及に正面から取り組んでいきたいと考えています。
柳沢 日本人は疲労マネジメントがヘタですよね。仕事終わりによく「お疲れさま」とあいさつしますが、これはおそらくクタクタになるまで働く日本だけの表現です。
欧州では疲れる前に仕事を切り上げるので、相手の苦労をねぎらうのでなく、例えば「グッドジョブ」というように相手を褒めて終わります。海外とのあいさつの違いには、日本が疲労マネジメントを苦手としていることがよく表れていると思います。
私自身は疲労と睡眠のマネジメントに気をつけています。パフォーマンスが落ちていると思えば仕事を切り上げるし、夜0時から朝7時の睡眠コアタイムもほぼ毎晩守っています。森澤社長がおっしゃったスーパー銭湯も大好き。入浴した後は本当によく眠れて疲れも取れます。
研究成果を発信して世の中を元気にする
――共同研究の展望を教えてください。
森澤 研究は3年間の予定です。1年目は、運動による疲労と睡眠の関係にフォーカスし、さまざまな運動負荷を行った後の疲労度と睡眠の状態を評価し、関係性を検証します。
2年目以降は、疲労状態において抗疲労成分フルスルチアミンが、睡眠の質改善にどのように作用するのかを解明していきます。
柳沢 ポイントの1つはリードアウト(読み取れるように数値を記録すること)です。睡眠に関してはS’UIMINのデバイスで測定できます。一方、運動後の疲労度には酸化ストレスや炎症、自律神経機能などさまざまな指標があり、どれを見ていくのかきちんとデザインすることが欠かせません。
私が機構長を務める筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構には運動負荷を専門に研究している大藏倫博教授がいるので、協力しながら検討していきます。
両者の関係やメカニズムについてはっきりとした結果が見えてきたら理想的ですが、予断を持つのはよくありません。疲労と睡眠については驚くほど研究が少ないので、因果関係が明らかになるだけでも学術的に大きな価値があるでしょう。
森澤 研究成果は柳沢先生から論文や学会発表で世に出していただく予定です。当社でも、オウンドメディア(Webサイト「フルスルチアミン疲れLab.(ラボ)」や公式YouTube「健康サイエンスch byアリナミン製薬」)を使って世の中に発信していきます。
発信を通して生活者の皆さんに疲労と睡眠のよいサイクルを提案し、日本や世界で元気な方がどんどん増えていくことに貢献したいです。柳沢先生が指摘された「お疲れさま」というあいさつが、いつか「明日も元気に!」などに変わるよう、取り組みを続けていきます。