JSRの次世代研究開発に根付く「挑戦の文化」 CTOと若手研究者に見る「事業成長の原動力」

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JSRの本田俊成氏、德久博昭氏、田中優氏
半導体の主要な製造材料の1つ「フォトレジスト」で世界シェアトップクラスを誇るテクノロジーカンパニーのJSRは、現在ライフサイエンス分野にも注力し、イノベーションと挑戦の精神を貫きながら躍進している。価値創出の源泉となっているのが、社会課題の解決に挑む研究者たちの存在だ。JSRに根付く「自発的なチャレンジ」を促進し、事業の成長につなげる文化について、研究開発部門のトップと若手研究者へのインタビューから探る。

研究開発を通して「社会課題の解決」を目指す

1957年設立のJSRは、戦後の産業振興に不可欠だった合成ゴムなどの石油化学製品の製造を祖業とする。それで培った技術を基に展開する半導体材料の分野では、半導体の回路形成に欠かせないフォトレジストなどを開発し、半導体の性能向上に寄与してきた。

現在は、そうした半導体材料などを軸にしたデジタルソリューション事業と、CDMO(バイオ医薬品の開発・製造受託)、CRO(医薬品の開発受託)といった創薬支援サービスや診断・研究試薬や抗体医薬などのライフサイエンス事業を成長事業に位置づけ、優位性のある技術と素材を磨いている。同時に、まだ事業化されていない新規技術の開発を目指す次世代研究にも挑戦。研究開発を統括する德久博昭CTOは、「最大の目標は、ソリューションを通して世の中の社会課題を解決することです」と語る。

「デジタルやバイオといった分野を問わず、社会課題の解決につながる提案をしていきたい。そのため、JSRでは短期と長期に視点を分けて研究開発を進めています。

短期では顧客や市場のニーズに対して短いリードタイムでソリューションを提供。一方、長期では社会課題として何が求められているのか(WHAT)、なぜそれを解決しなければならないのか(WHY)を部門の方針として明確にし、目標を共有したうえで、どのようにチャレンジするか(HOW)については現場の研究員に委ねる形で取り組んでいます」(德久CTO)

執行役員 新規研究担当(CTO) 德久 博昭氏
執行役員 新規研究担当(CTO)
德久 博昭

既存事業の深化と新規事業の創出の両輪で、将来を見据えた革新的な技術開発に注力しているということだ。とくに近年は、「自社だけで解決できることは非常に少ない」との考えから、外部の知見を取り入れるオープンイノベーションも積極的に推進している。

例えば、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻との包括連携拠点「JSR・東京大学協創拠点CURIE」では、自動培養機とシミュレーションによる抗体開発を進めている。これはJSRのオープンイノベーションを代表する取り組みといえるものだ。この研究では、東京大学が開発した培養の自動化とシミュレーションによる数理解析を組み合わせた高効率かつ高精度な実験によって、抗体の生成量向上や製品開発のスピードアップを目指しているという。

こうしたオープンイノベーションに対して、研究員にはチャレンジ精神を持ってシナジーを創出してほしいと德久CTOは強調する。

「当社は研究員の裁量が大きく、ボトムアップで研究を進める風土があります。目標の達成に向けて何にトライするのかについては、研究員個人の判断に任せています。オープンイノベーションについても、研究員が外部の研究者や技術者とのディスカッションを通して具体的な取り組みを決めています」(德久CTO)

若手研究者たちが開く、新たな可能性

德久CTOが語るとおり、イノベーションの創出に向けてチャレンジ精神を持って取り組む研究員が多いのがJSRの特長だ。

その一人が、本田俊成氏である。2014年入社の本田氏は、薬物を体内の特定の部位に送り届ける技術「ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)」の1つである「脂質ナノ粒子」に関連する技術の研究を担当している。

DDSは、薬物を体内の特定の部位に送り届ける技術の総称であり、薬物の体内動態を制御して、治療効果の向上や副作用の軽減を図る目的で使用される。従来の薬剤の課題を解決できる技術であることから注目が高まっている。その1つである脂質ナノ粒子は、新型コロナウイルスのワクチンで知られるようになったmRNAワクチンをはじめ、さまざまな医薬品を内包できる先端的な技術だ。

JSRでは、脂質ナノ粒子の構成要素である機能性脂質の販売事業化に向けて、アカデミアと連携しながら取り組みを進めている。その過程で、北海道大学の原島秀吉教授・佐藤悠介助教らにより開発された機能性脂質に目を付けた。一方、その社会実装に向けては新たな技術開発が必要であることがわかり、JSRが社会実装に必要な技術の開発を担う形で、北海道大学との連携を進めてきた。

このような背景の下、DDS技術を深く学ぶことでJSRの研究に貢献できると考えた本田氏は、JSRの海外研究派遣制度に応募し、海外の大学に2年間留学した。本田氏は当時をこう振り返る。

JSR Bioscience and informatics R&D center(JSR BiRD) 本田 俊成氏
JSR Bioscience and informatics R&D center(JSR BiRD)
本田 俊成

「入社してしばらくは、抗体医薬製造に使われる精製材料を高性能かつ安価に開発・製造する業務を担当していましたが、しだいにもっと新しいことを学びたいという思いが芽生えるようになりました。そこで、今後JSRに必要になる技術を見つけ出すために、自分で米国の大学を探し、社内の制度を利用して2年間留学しました。その留学中にDDSについて学び、これまで開発が困難だった医薬品を世の中に送り届けることができるという可能性にひかれ、帰国後も研究を進めることに決めました」

そしてもう一人、ライフサイエンス事業の分野で次世代研究に従事しているのが2020年入社の田中優氏だ。大学では、ヒトの体に共生する細菌などの微生物「マイクロバイオーム」を研究。腸内細菌などのマイクロバイオームは人々の健康向上に貢献するという研究結果が近年続々と報告され、新たな医薬品や食品の開発が注目されている。

JSRでは、マイクロバイオームの創薬と社会実装に向けた研究開発を推進。田中氏は現在、ベンチャー企業を中心に製品開発の課題やニーズをヒアリングし、どのような技術で解決できるか提案している。「1年目からさまざまな企業に話を聞き、『こういう課題を解決したい』と相談される中で、自分なりにどういう解決策があるか試行錯誤しています。適していると思われる提案を出して、それが受け入れられると達成感を感じます」と田中氏は言う。入社4年目ながら、責任ある業務を任されているが、責任と同時にやりがいも感じているようだ。

JSR Bioscience and informatics R&D center(JSR BiRD) 田中 優氏
JSR Bioscience and informatics R&D center(JSR BiRD)
田中 優

「製品化の初期から携われるため、ゼロからイチをつくり出せる仕事にやりがいを感じています。現在は、マイクロバイオーム分野の検査サービスや医薬品などの製品開発のための研究を外部企業と協力しながら幅広く進めています。今後は体内のマイクロバイオームそのものをオーダーメイドで変えることも可能になると考えています。それにより、生活習慣病の予防や体質の改善などに対して早い段階から対応できるようになるはずです」(田中氏)

自ら提案し行動を起こす「挑戦の文化」

本田氏は、留学先で得た知見を生かして、現在DDS用脂質の販売事業化に向けて製造体制の構築と、新たな技術の開発に邁進。田中氏はマイクロバイオームの製品化に向けて、企業とのコラボレーションを着々と進めている。

その過程で苦労がなかったわけではない。本田氏が研究するDDSに関する知見は社内ではまだ少なく、留学から戻った後にもDDSに詳しい専門家に話を聞きに行ったり、学会に参加したりと、地道な情報収集から始めなければならなかった。田中氏も、マイクロバイオームの製品化の方法を模索する中で、「このやり方でうまくいくのかと、結果が出るまではずっと不安です」と打ち明ける。

それでも、2人が次世代研究に精力的に取り組めるのは、立ちはだかる「壁」をものともしない、研究者としての高い好奇心があるからだ。仕事のモチベーションについて聞くと、「もともと新しいことが好き。新しい知識を得ることにワクワクするので、専門家の先生に話を聞くことも好きですし、仕事を通して自分が成長するのが楽しいです」(本田氏)、「年次や年齢に関係なく、自分が社会課題解決のためになると信じたことにチャレンジできるのでモチベーションが高まります」(田中氏)と笑顔を見せる。

そして、そうした若手研究者が意欲を持って活躍できる背景には、JSRに根付く「挑戦の文化」があることがうかがえる。德久CTOは「彼らは自分の専門分野を持ち、その分野では私を含む社内の誰よりも詳しいプロです」と認める。そのうえで、自身の若手時代を振り返りながら、次のように話す。

「私も大学卒業後、JSRに入社して2カ月ほどで顧客とディスカッションしていました。JSRには、年齢に関係なくチャレンジできるDNAが根付いています。自ら提案し、行動を起こすことに対しては、大きな制限を設けていません。注力する事業分野という大枠は会社で決めていますが、その中でやりたいことが見つかれば、それに対して向き合って、技術革新に挑戦してほしいと思っています。実際にJSRの研究者は、イノベーションを求めてつねにチャレンジしてくれていると感じます」

JSRは風土的な経営基盤として5つのファウンデーションを定義している。そのうちの1つが、既成概念にとらわれずに研究を進める「イノベーティブカルチャー」だ。これは、技術に価値を置くJSRに不可欠な基盤であり、成長の原動力となっている。

JSRが定める「5ファウンデーションズ」

時代の先端を行くテクノロジー企業であり続けるために、会社と研究者一人ひとりの挑戦への意志や思いを重ねる。それこそが、JSRが成長を続け、国内外で存在感を発揮する理由なのだろう。

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