野村HD奥田氏、入山章栄氏「経済成長への貢献」 個人投資家と共に世界市場へ挑戦していく決意

拡大
縮小
入山章栄氏 野村グループ代表取締役社長 奥田健太郎氏
>対談のオンデマンド配信(動画)はこちら
世界30以上の国と地域で金融サービスを展開している野村グループ。約2万7000人、90カ国以上の人が働くグローバルカンパニーだが、今どんなチャレンジをしようとしているのか。世界を知る経営学者であり、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏が、野村ホールディングス グループCEOの奥田健太郎氏に迫った。

創業時から引き継がれる、挑戦のDNA

入山 2025年に創立100周年を迎える野村ホールディングス(以下、野村HD)ですが、とくに法人向けのホールセールビジネスではグローバル化が進んでいると伺いました。

奥田 当社は創業の1年半後、1927年には米ニューヨークにオフィスを開設しています。創業の時代から、グローバルな金融機関を目指してきました。今、グループの収益構造を見ると海外比率は約4割で、ホールセールに限れば7割に達しています。もちろん軸足を置くのは日本ですが、日本のお客様に質のいい商品やサービスを届けるためにはグローバルな展開が欠かせません。

過去にはREIT(不動産投資信託)や転換社債、ETF(上場投資信託)、最近ではサステナブルFITs(行使価額修正条項付新株予約権)や不動産セキュリティ・トークンといった新しい商品でも実績を残してきました。「最初に手がける」という精神は野村のDNAの中に生きています。当然、挑戦をすれば失敗することもあります。失敗は結果ではなく成功への過程です。「ノープレー・ノーエラー」がいちばんよくない、と伝えています。

野村グループ 代表取締役社長 奥田健太郎氏
野村ホールディングス
グループCEO
奥田 健太郎

入山 絶えず変化を繰り返してきた歴史から、挑戦する文化が育まれてきたんですね。日本の証券会社の中で確固たる地位を築いている野村HDにも、変化が必要なのですね。

奥田 はい。例えば、最近はデジタルのニーズがかなり増えてきました。その動きに即してデジタル完結型のプラットフォームを用意しています。また、デジタルでは完結が難しい相続のご相談など、お客様が「人に相談したい」というようなニーズについては対面で対応するという振り分けをしています。ほかにも、若いお客様には資産形成のアドバイスができるパートナー、事業や資産の承継をお考えのお客様にはそのノウハウを持つパートナーを充てるといった取り組みも始めました。お客様一人ひとりのニーズに応えるモデルに変革しているところです。

プライベート資産への投資、日本経済の活性化に貢献

入山 野村グループは今後注力する領域として、「ソリューション、ストラクチャード・ファイナンス」「投資銀行ビジネス」「資産管理・運用ビジネス」の3つを挙げています。そもそもこの3領域を強化する狙いは何でしょうか。

早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏
早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール教授
入山 章栄

奥田従来、野村が強みを有している仲介、流動性供給ビジネスは、これまでどおりリスク管理を徹底しつつ着実に推進していきます。また、安定して8%以上のROE(自己資本利益率)を達成するためには、リスクマネジメントを行い、業績の安定性を高め、成長領域を伸ばす必要があると考え、それが期待できる3つのビジネスを強化することに決めました。

入山 まず「資産管理・運用ビジネス」についてご紹介いただけますか。

野村ホールディングスの収益構造

奥田 当社は全都道府県でビジネスを展開し資産運用のご支援をしてきましたが、その中心は株式や債券など、主にパブリック市場の資産でした。今後は、プライベート市場の資産にもラインナップを広げていきます。例えば2022年には、私募の不動産投信を販売しました。ポートフォリオの選択肢を増やすことで、ビジネスを伸ばしていけると考えています。

入山 日本経済にとってもいいことですね。経済を活性化する条件の1つは、ベンチャー企業にお金が回ること。潜在的な力を持つ企業や不動産に投資する運用商品を作り、多くの投資家に共有することは、日本経済の活性化に寄与するはずです。

奥田 その意味で、野村の果たすべき役割は大きい。昨年、オーストラリアの森林資産運用会社であるニューフォレストに出資しました。こうした動きは、サステナビリティやESGの観点からも重要です。ほかにも、まだ手がけていないプライベートの資産はたくさんあります。そういった領域に挑戦して、投資家の方々が投資しやすい環境を整えることが野村の責務だと考えています。

多様な運用商品

グローバルM&Aを強みに投資銀行ビジネスを展開

入山残りの2つについてはどうでしょうか。

奥田「ソリューション、ストラクチャード・ファイナンス」は、私募の投信へのニーズが強いことから、当社の事業の中でも、とくに伸びている分野です。

「投資銀行ビジネス」は、IPO(新規株式公開)などの資金調達やM&Aのサポートを行います。中でも私たちが強みを持っているのはグローバルM&A、とくに日米間の案件です。2020年4月にはサステナビリティやESGを専門的に扱う、米グリーンテック・キャピタルを買収。環境関連の技術を持つ会社への投資機会を提供しています。

入山 日本ではまだ活性化していない領域に、海外の資金を呼び込むことも重要です。日本への投資が再び注目される中、野村に寄せられる期待は大きいのではないでしょうか。

奥田はい。22年3月から「Revisit Japan」と名付けて、海外の投資家に向け、日本の市場や会社に投資する機会を紹介する活動を行っています。日本にはさまざまな課題がありますが、そこに海外の力を活用できれば発展につながるはず。入山先生のご指摘どおり、日本から海外、海外から日本という両方の流れを進めることが大切です。同時に、日本の投資家に改めて日本株の魅力をお知らせし、投資していただく機会を提供できるような商品の供給も行っています。

入山 未来への成長を考えると、株主還元と成長投資のバランスも重要です。

奥田株主還元は配当性向で30%、自己株取得を加えた総還元性向は50%というのがこれまでの考え方で、実際はそれより高い還元をしてきました。一方で成長投資も必要です。具体的には、1つ目がアセットマネジメント、2つ目がアジアでのウェルス・マネジメント、3つ目がアドバイザリー。これらに積極的に投資していきたいですね。

多様な人材、生き生きと働ける環境に

入山 私が野村HDの新任執行役員研修で講師を務めた際にすばらしいと感じたのは、私の講義内容について、その場で率直に指摘してきた方がいたこと。社員さんもみんなパワフルですよね。奥田さんは、人材育成や働く環境についてどうお考えですか。

奥田 人材は野村にとって最大の財産です。当社はダイバーシティ&インクルージョンを体現していて、それが当社の強みの根源になっていると思います。例えば、今期新任の執行役員15名のうち7名はキャリア採用組で、グループ全体の役員のうち11名は女性です。取締役全12名のうち8名が社外取締役で、そのうち4名は海外出身。もちろん現場でもさまざまなバックグラウンドのメンバーが活躍しており、2022年からは若手社員がスタートアップ企業などに1年間出向する制度を始めました。一度退職した社員が復帰するケースも多く出てくるようになっています。若い世代は、自分のキャリアを自律的につくっていきたいという思いが強い。それに応えるべく、社員がワクワクしながら誇りを持って働ける環境を整えています。

入山章栄氏 野村グループ代表取締役社長 奥田健太郎氏

入山野村HDが日本の資本市場を熱くする、未来に向けた挑戦をされていることがよくわかりました。最後に、奥田社長が描くビジョンを改めて教えてください。

奥田日本に強固な事業基盤や顧客基盤を持ちながら、グローバルなネットワークを有し、金融資本市場を通じて真に豊かな社会の創造に貢献することが、野村のミッションです。次の100年に向けてまた挑戦を続け、サービス向上に取り組んでいきます。

>対談のオンデマンド配信(動画)はこちら

お問い合わせ